動物嫌いの漫画家がトイプーを飼い始めた結果。犬の表情豊かな愛おしい顔と生態を巧みに描き、見る者を癒す犬マンガ

マンガ

更新日:2024/2/27

うちのトイプーがアイドルすぎる。
うちのトイプーがアイドルすぎる。』(道雪葵/KADOKAWA)

 漫画家の道雪葵が仕事の合間に描いてX(旧Twitter)にあげていた、トイプーとのエッセイ漫画が反響を呼び、シリーズ化した『うちのトイプーがアイドルすぎる。』。すでに3巻まで発売されている人気作だ。

 この作品の特徴的な点は、作者が元々動物嫌いだったという点である。動物は匂いも独特だし、噛むし、突くし、言葉が通じない。リードのない犬に追い回されたり、よその犬に噛まれたりと、歳を重ねるにつれてトラウマも増えていったせいで、作者は絶対に動物は飼わないと誓っていた。

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うちのトイプーがアイドルすぎる。

 そんな動物嫌いの作者がトイプードルを飼うことになったのは、あまりにも突然のことだった。

 当時まだ小学生だった妹がトイプードルを飼うと宣言。一緒にペットショップに連れて行かれたお母さんはすでにその可愛さにメロメロになっており、数日後には家族の賛成派(妹、母、父)によってお迎えされてしまったのだ。自分の人権はと怒る作者に、じゃあ家を出ていけばいいじゃないと返されてしまう始末。

 最初は自分が関わらなければそれで済むと思っていた作者だったが、一緒に暮らしていく中で、犬の生態を知り、犬は人間と同じ感情を持つ生き物だと知った時、一気にその価値観は変わった。

うちのトイプーがアイドルすぎる。

 そして、作者はトイプードルのクーさんに歩み寄る努力をし始めるのだった。次第によその犬にも触れられるようになり、気がつけばすっかり犬好きにまでなっていた。

 作者が犬好きだというのは、この漫画を読んでいるだけでも伝わってくるものがある。クーさんに向ける眼差しは温かく、作者に描かれるクーさんはとても表情が豊かだ。一緒に暮らしているからこそわかる、繊細な感情の機微も取りこぼさずに拾っているおかげで、コロコロと表情が変わるクーさんの生き生きとした姿がより伝わってくる。クーさんをとても愛おしく思っているのだろう、というのが自然と感じられる。

うちのトイプーがアイドルすぎる。

 犬というと、人懐こくて誰にでも愛嬌を振りまいているようなイメージがあるが、実際は彼らにも好みがあるようだ。例えばクーさんは、女の子にチヤホヤされるのは好きだけど、男の人には撫でられたくないタイプだ。かくれんぼでお母さんと遊ぶのは好きだけど、自分よりも子どもを相手にすると萎えてしまう繊細なシニア心もあったりして、思わず笑ってしまう。

うちのトイプーがアイドルすぎる。

うちのトイプーがアイドルすぎる。

 また、時々思わず嘘でしょと笑ってしまうようなコミカルな出来事も描かれている。近所のトイプーが急に立って歩き出したり、クーさんが車に乗る前に必ず車の下に入り込んで裏側から押すようになったり……人間の予測がつかない姿を見せる犬の生態を見ていると、人間がこれだけ犬の虜になるのもわかる気がする。いつでも彼らは驚きと愛らしさと幾らかのユーモアを私たちに与えてくれるのだ。

うちのトイプーがアイドルすぎる。

 作者よりも10歳下の妹には、兄貴分でいたいクーさん。妹が落ち込んでいる時は、自分から慰めにいく優しさがある。一方で、大好きなお母さんにはいつまでも甘えていたいクーさんでもある。

うちのトイプーがアイドルすぎる。

 クーさんの、マイペースで自由気ままで、それでいて優しさに溢れている姿を見ていると、心がほっこりとする。そして、そんなクーさんを作者の家族が愛して大切にしているということに、また胸が熱くなる。笑って、ニヤけて、時々泣ける、とてもいいエッセイ漫画だ。

文=園田もなか

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