田丸篤志、森川智之らでアニメ化『ただいま、おかえり』。男性カップルが子を産み育てられるオメガバースの世界とは

マンガ

公開日:2024/4/3

ただいま、おかえり
ただいま、おかえり』(いちかわ壱/ふゅーじょんぷろだくと)

 理想の家族とは何だろう。男性がお父さんで、女性がお母さんなら理想なのか。子どもが居たら理想なのか。それは、誰にとっての理想だろう。結婚したら、子どもが生まれたら家族になれるのだろうか。

 おそらくそうではないだろう。子どもが生まれたからと言ってその瞬間から親になるわけではないし、どんな家族にも悩みはある。それでも毎日同じ時間、問題に向き合い、共有して乗り越えていくことで、昨日よりももっと「家族」になれるのだ。『ただいま、おかえり』(いちかわ壱/ふゅーじょんぷろだくと)は、どんな家族のかたちも尊い存在であることを教えてくれる、ある家族の物語だ。

 男性カップルが子どもを持つことができる「オメガバース」の設定で描く漫画『ただいま、おかえり』は、メインキャラクターである藤吉一家の子育て中心の日常を、柔らかく美しいタッチで表現している。本作は2024年4月からアニメ版が放送予定で、森川智之さん、田丸篤志さん、種﨑敦美さんなどが声優を務める。

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 本作の主人公、藤吉真生(ふじよし まさき)は自分に自信が持てない専業主夫。エリートサラリーマンの夫・弘(ひろむ)ともうすぐ2歳になる息子・輝(ひかり)の3人で、郊外の街に引っ越してきた。格差婚という世間からの偏見から不安や悲しみに囚われることもあるが、何気なくも大切な日常のなかで少しずつ自分を受け入れていく。

 オメガバースとは欧米が発祥といわれる物語設定で、α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)の3種の人間が存在する架空の世界のこと。オメガバースの世界では男女関係なく妊娠することができるため、男性カップルが子どもを産み育てることも可能だ。

 種にはそれぞれ特徴があり、アルファはあらゆる面で優秀とされているエリート層。人口全体の約20%を占める。ベータは人口全体の約70%を占める中間層。そしてオメガは人口全体の約10%で生殖率が低いことからアルファやベータに劣る存在とみなされている。このほか、身体的な特徴や性質も種によって異なる設定がされている。オメガバースの細かな設定は各作品によってさまざまなアレンジが加えられており、無数のバージョンが存在するそうだ。

 同種間で結婚することが通例とされているなか、メインキャラクターである専業主夫の真生はオメガ、エリートサラリーマンの弘はアルファであり、種による格差で周囲から心無い言葉を投げかけられることもしばしば。生きづらさは抱えているが、家族3人支えあいながら暮らしている。

 本作の一番の癒しは、もうすぐ2歳になる輝の存在だ。拙い言葉で一生懸命に自分の思いを伝えようとする姿は、輝の両親である真生と弘だけではなく、藤吉家を見守る周囲の人たちさえもメロメロにしてしまう。

 藤吉家のお隣に住む大学生・祐樹は、人と関わるのが苦手だったにもかかわらず、一瞬にして輝に気に入られ、すっかり仲良しのお友達になる。子どもの存在は、時に人の心の壁まで取り払ってくれる。藤吉家に関わるようになり、祐樹自身も成長していくので見逃せない。

 ある日、オメガの身体的特性によって体調を崩してしまった真生。具合が悪い真生を心配してぐずる輝に投げかける弘の言葉にはグッとくる。差別や偏見、抗えない本能…それらは私たちが暮らす日常にもありふれていて悩ませている。自分の身体や気持ちとまっすぐに向き合う描写があるからこそ、この漫画にリアリティが生まれ、共感できる。

 種による格差がある弘と真生の結婚を認めなかった弘の父との確執は、一番身近な人に理解してもらえない、理解し合えない苦しみが伝わってきて、共感する人も多いのではないだろうか。輝の存在によって少しずつ家族の関係が動き出すので、輝のかわいらしいヒーローっぷりをぜひ見てほしい。

 最近ようやく、「おっさんずラブ」「消えた初恋」「作りたい女と食べたい女」など、異性・同性に囚われない恋愛を描くドラマ作品を見かけるようになってきた。「異性を好きになることが当たり前」と決めつけたり、「相手に釣り合う、釣り合わない」を他人が決めたりするのではなく、誰かを好きになるのは当人たちだけが持つ意思でしかない。「好きな人と、ただ一緒にいたい」「家族になりたい」という思いや、子どもを愛おしく思う親の愛情を描く本作は、ほかのハートフルなホームドラマと何ら変わらない。

 自分自身を自由に表現しやすくなったここ数年。「オメガバース」の世界観である本作がアニメ化されることは大きな進歩だし、そのこと自体が多様性を表現しているのではないかと思う。オメガバースの世界観に初めて触れる人もたくさんいるだろうし、この世界観に対していろんな考えを持つ人もいるだろう。だけれど、伝えたいことはおそらくどんな漫画の結末でも同じで、当人同士が幸せであればそれで良いのだ。

 できればこの世界がずっと続けばいいなと思えるような、ほのぼのとしたあたたかな時間が流れる『ただいま、おかえり』。春から始まるアニメ版にも注目したい。

文=鈴木麻理奈

アニメ化について
TVアニメ2024年春 放送予定

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