富や権力、名声…すべてを持ったワガママ未亡人の痛快で刺激的な活躍から目が離せない!『マダム・ジョーカー』

マンガ

公開日:2024/6/17

マダム・ジョーカー

 2023年に漫画家として半世紀の歩みを迎えた名手・名香智子氏。これまでにも様々な傑作を生み出してきた彼女だが、現在もまだまだ漫画家として生涯現役で筆を走らせ続けている。そんな名香氏が、今もなお物語を紡ぎ続ける人気作のひとつが『マダム・ジョーカー』(双葉社)だ。


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 富と名声、美貌にかわいい子どもたち。すべてを持つ未亡人・月光寺蘭子がそれらにモノを言わせ、周囲に迷惑をかけたり鼻につく人々をギャフンといわせる、痛快なヒューマンストーリーである本作。2000年の連載開始から20年以上経った現在も、物語は現役で展開中。多くの読者から根強い支持を得る、長寿作品だ。

マダム・ジョーカー

 7年前に夫を亡くした未亡人・月光寺蘭子。彼女は夫の忘れ形見である息子・十蘭と娘・蘭奈、そして大企業・光グループの大株主という地位と莫大な富を以て、毎日を楽しく気ままに過ごしている。

 ある日、蘭奈のピアノ指導を受け持っていた麻由美が不慮の事故により溺死。直前に彼女は長年付き合っていた恋人である小説家・稲本の不貞を嘆いており、師の死因を怪しんだ娘たっての願いで、蘭子は稲本への接近を試みることとなる。

マダム・ジョーカー

結果、直接稲本が彼女に手を下したわけではなかった。しかし若く美しい新恋人に現を抜かす稲本は、自分を甲斐甲斐しく支えてくれた麻由美の死に対しても、どこかせいせいした、とでもいいたげな不遜な態度を取る。

 己の権威や人気を笠に着て、蘭子にも鼻持ちならない振る舞いで接する稲本。まさしく「女の敵」と呼べる彼に対しカチンと来た蘭子は、2人の子どもたちや義弟・斎の力も借りつつ、稲本をギャフンと言わせる作戦を練り始めるのだった。

マダム・ジョーカー

 作品の魅力は、やはり人がうらやむ全てを以て、憎らしいヒール役の人物を痛快に懲らしめる主人公・蘭子の存在だろう。夫を亡くした未亡人とはいえ、贅沢三昧で、自身も特権を持つ人間ゆえの無自覚な傲慢さを持つ。そんな蘭子を、初めは快く思わない読者もひょっとしたらいるかもしれない。

 ある意味では、本作の悪役に据えられる人々とも近しい一面を持つ彼女。ワガママで尊大な蘭子が、辛うじて敵となる人々との一線を超えないポイント。それもまた、真に特権を持つ人間ゆえの余裕や気品といったところだろうか。

マダム・ジョーカー

 揺るぎない富や地位、名声を持つ人は、誰かを貶し引きずり降ろして上位に立とうとする必要はない。自分の居場所を守るために、誰かを傷つける必要もない。他人がどうあろうが、自分自身の恵まれた環境が揺らぐことなど一切ないからだ。彼女の奔放さや破天荒さを派手で自分勝手だと感じつつも、不快感や悪意を抱かない理由はきっとそこにある。

 自分の快楽のために、彼女は主体的に他者を傷つけることはしない。むしろ本来は面倒事を嫌う彼女が企てる痛快な報復によって、結果として周囲の大事な人々に降りかかる火の粉を払ったケースも多々あるのだ。

 傲慢でありながらも、筋の通った行動理念を貫く。だからこそ蘭子は鼻持ちならないけれど、どこか憎めない魅力的な主人公として愛され続けているに違いない。既に亡くなった夫が彼女にすべてを遺したのも、もしかしたら蘭子のそんな一面に惚れ込んだからなのかも。

マダム・ジョーカー

 自身の持ちうる権力や財産を巧みに用い、周囲で起こるトラブルを豪快かつトリッキーに解決する未亡人・蘭子には、まさしく作題の“マダム・ジョーカー”という愛称がぴったり。さまざまな事件の中で、時には彼女の子どもたちの人間模様も変化したり、あるいは亡き夫の弟である、斎と蘭子の関係性にも変化が…? 本作を1度読めば、痛快なコメディとともに描かれる彼女の物語から、誰しも目を離せなくなること間違いなし。

文=ネゴト/ 曽我美なつめ

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