異世界に転生した検事、初仕事は殺人罪で起訴されたドラゴンの弁護。司法が誕生したばかりの世界でどんな法曹バトルを繰り広げる?

マンガ

PR更新日:2024/5/31

法の番人は守る世界を選べない"
法の番人は守る世界を選べない』(師走トオル:原作、三ツ矢彰:漫画/講談社)

 今や一大ジャンルとなった「異世界転生もの」。何らかの事情で命を落とし、異世界に転生した主人公はチートスキルを授けられ、これまでの人生にリベンジするかのように無双していく……それが異世界転生ものの定石だ。また、転生先の異世界はどこか幻想的な雰囲気で、口から火を噴くドラゴンに勇者パーティ、エルフなど、これまたファンタジー御用達の面々が活躍する。時には屈強なドラゴンにやられて負傷したり、命を落としたりする勇者パーティもしばしば。悲しいけれど異世界って、ファンタジーって、「そういうもんだよね」と。私たち読者が抱く常識を「異議あり!」と言わんばかりに、法律という名のパンチで殴ってくる作品がある。それが、『法の番人は守る世界を選べない』(師走トオル:原作、三ツ矢彰:漫画/講談社)だ。

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 主人公は、エリート検事として活躍中の中村勇気。ある日、極悪非道な交通事故を起こした社長を起訴しようとするも、口封じで闇の権力によって殺されてしまう。そんな彼が目を覚ますと目の前には女神が……。ここからお決まりの異世界へと転生することになるが(ちなみに、死因は異世界転生でお馴染み“トラックに轢かれる”なのである)彼の転生先は司法が誕生して間もない異世界「イデスガルド」だった。

 法律を作り、力ではなく法でイデスガルドに秩序をもたらそうとするも、法曹不足に司法制度の不正など、とにかく課題が山積みなのだと女神は言う。そんなイデスガルドにおける法曹の質、社会秩序を高めるべく、エリート検事の中村に白羽の矢が立ったのだ。女神からの提案に戸惑う中村だが、生前の無念を晴らすべく異世界の検事として生きる道を選ぶ。

 異世界転生初日。中村は早速とある事件の裁判を任されるのだが……。この事件こそが、私たち読者がこれまでに「そういうもんだよね」と流していた異世界あるあるなのだ。――被告人はドラゴン。長い間宝の門番をしていたが、ある日宝を奪いにきた冒険者パーティの1人を殺してしまう。残された冒険者一行はドラゴンへの復讐を誓って討伐に向かったり、異世界転生者であればチートスキルを発揮してドラゴンを倒したり……。なんとなくこれまでの異世界転生ものの傾向的に「こうであろう」という展開がいくつか予測できるが、なんと冒険者一行はドラゴンを殺人罪で告訴するのだ。

 ドラゴンには私たち人間と同等の知能があるのだから殺害の意思があったはずだ! よって殺人罪として起訴する! という具合で、ファンタジーなのに、冒険者なのに、武器でも魔法でもなく“法律”で殴りかかってくる意外性に思わず笑ってしまう。また、ドラゴン側の弁護士を務める中村が真正面から法廷バトルを仕掛けてくるものだから、笑いだけではなく、手に汗握るような心理戦としての面白さがある。たとえば、裁判員に対して“冒険者殺しのドラゴン”という一方的なイメージを払拭させるために、ドラゴンには人間の女性の姿に変身して出廷してもらったり、証言の裏に隠された、冒険者パーティたちのこじれた人間関係を暴いたり……。舞台設定や登場人物はファンタジーなのに、一つ一つの展開がやたら現実的。チートなしの地道な法廷バトルに胸が熱くなる。

 剣を振り回すことも、魔法を発動させることもなく、ひたすら思考を巡らす「モノローグ」が多いという、なんとも斬新な異世界転生もの『法の番人は守る世界を選べない』。ドラゴンの次は誰がどんな罪状で訴えられてしまうのだろうか?その目の付け所が非常に楽しみな作品である。

文=ちゃんめい

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