【ダ・ヴィンチ2016年9月号】今月のプラチナ本は 『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』

今月のプラチナ本

2016/8/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』

●あらすじ●

薔薇の咲き誇る家で、予約のとれないフラワーアレンジメント教室の講師をし、カリスマ主婦として本も出版する咲季子。夫・道彦の異常なほどに厳格なルールに束縛されながらも、自分は幸せな日々を過ごしていると信じていた。
あの日、年下の男・堂本と出会うまでは。
美しく才気に溢れる堂本に愛する喜びを教えられ、やがて自分が受けている酷いモラハラを自覚していく咲季子。解き放たれたい──そしてある夜、彼女は二度と戻れない道へ踏み出してしまう。咲き誇る薔薇の下深くに秘密を埋め、何も知らない堂本と旅に出るが……。

むらやま・ゆか●1964年、東京都生まれ。93年『天使の卵─エンジェルス・エッグ─』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞、09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞。

La Vie en Rose ラヴィアンローズ

村山由佳
集英社 1500円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

あなたの足の下に埋まっているものは

もしかすると誰もが、足の下に、誰にも言えない何かを埋めて生きているのかもしれない(本書より)。この本を読んでいると、常に、うっすらと怖い。ホラーのように、これでもかといわんばかりのショックシーンがあるわけではない。本作に感じる怖さは、人は自分の意志で生きることなどできないのではないか、という疑念だ。結婚する、恋をする、見つかってはいけないものを埋める……自らそれを選び取る、強い意志がなければ出来ないようなことが、実際には何かに流されるように連なっていってしまう。そして残るのは、宝石のようにきらめく一瞬の記憶と、足元に埋まった何か。結局自分が欲しかったものは何だったのか? その答えを得られる人間は、この世に何人いるだろう。「幸せ」という幻を追い続けることの、切なさがひたひたと胸に迫る。

関口靖彦 編集を担当した『小説 君の名は。』が30万部突破。ありがとうございます。映画『君の名は。』も本当に素晴らしい作品なので、ぜひご覧ください(8月26日公開)。

 

人を殺めた小説なのに、なぜか清々しさが漂う

〈お前は頭が悪いから〉〈先のことが考えられないから〉〈ちゃんとしつけてやらないと恥をかくのはお前だ〉──顔を平手で殴られるよりも、こうした言葉を日々浴びせられるほうがキツイ。それでも咲季子は「私の人生は祝福されている」=幸せだと思い込もうとする。刺々しい言葉で作られた檻の中で萎縮していた彼女がそこから抜け出すきっかけとなったのは、自分を女性として認めてくれる男との恋愛。私が本書に強く惹かれたのは、ここからの彼女の変化。人としての一線を超えたのだって、自分のためというより、その男を守るため。その後の立ち居振る舞いも落ち着き、むしろ堂々としている。彼女のこうした強さは、長年庭の管理者として君臨、数多くの植物に精通し、それらを育ててきた自信に裏付けられていると思っている。彼女には味方がいたのだ。

稲子美砂 以前の「本の話」インタビューでの風間俊介さんの『不思議な少年』『ランド』への思いがあまりに熱く、ぜひ山下先生に直接伝えていただこうと対談を企画しました。炸裂してます!

 

他人事ではない恐ろしさ

経済的にはもちろんだけど、精神的にも一人で立っていられるって大事だなと改めて。夫・道彦からのモラハラを自覚なく受ける咲季子。やんわりと外堀から埋めていくような道彦からの束縛の描写が、息苦しく恐ろしかった。人は自分の足で立っていないとだめだ。自分の面倒を見られないようでは、誰も幸せにできないと個人的には思う。そう思っているけれど、こんな風に罠が仕掛けられたら、自分だってどうなるかわからない。そんな恐ろしさを感じた一作だった。

鎌野静華 最近のキウイフルーツって甘くておいしくないですか? 子どもの頃は酸味がきつくて苦手だったのに、今年の夏ハマってしまい毎日食べてます。

 

恋について真剣に考えるきっかけ

踏みとどまろうとする理性と、肉体に打ち寄せる歓喜はせめぎあっているようでいて、答えは最初から出ていたのかもしれない。咲季子の主観で描かれる堂本との禁じられた逢瀬には、思わずうっとりとしてしまった。20代、30代でそれぞれデザイナーの男性と出会い、恋に落ちた咲季子の人生。激しく燃え上がった一瞬が、読者の心に火を灯す。咲季子が愛を注ぎ続けた薔薇の庭園はあるがままに美しく、あるじの皮膚を時に貫く。痛みとともに、どこか遠くへ行きたくなった。

川戸崇央 山下和美さん特集を担当。数寄屋のご自宅ステキ! 関係者が驚くほど優しい! そして何よりご本人が面白い! ご一読ください!!

 

幸せは自分のなかにしかない

ある人との出会いをきっかけに、視点や思考がまるで変わることがある。不倫の恋から、夫からのモラハラに気付き、別の自分を取り戻そうとする咲季子。しかし先に持たねばならなくなる「秘密」のせいで、今度は不倫相手の男への「見方」も変わる。咲季子はそれを感じながらも、相手から貰った一瞬の輝きを肯定する。すごく女性らしい心情だと思う。けれど結局は、本当の輝きを得るには、他人からではなく「自分を持つこと」が大切なんだろうと、今作から考えさせられた。

村井有紀子 出張で北海道へ。仕事で何度も訪れているためか、「札幌市内で深夜にゲラ読みするならココ」みたいなお店もできてきました。大好きな街です。

 

甘美さの中に渦巻く苦い後味

デビュー作『天使の卵』は高校時代に読んだ。この作家は女性なのに、なぜこんなにも、切なくままならない男子の恋情がわかるのだろうかと、その心情描写に鮮烈な印象を抱いたのを覚えている。以降それは私が村山作品を好きな要素でもあるのだが、本作はこれまでで一番の衝撃を受け、読後しばらく言葉が出てこなかった。物語が結実し、モラハラ夫からの精神的・物理的脱殻を果たした主人公の咲季子が手にする「自由」という幸せは、あまりにも孤独で、残酷で、しかして甘美。

地子給奈穂 読後、デヴィッド・フィンチャー監督の映画『セブン』鑑賞後を思い出した。ある種のカタルシスと後味の悪さの同居で胸痛。もう唸るしかない。

 

現実の半歩先を描くリアル

読み進めるのが怖かった。心を直に触られているような気がしたからだ。咲季子が若い男と出会い、恋に落ちることで自覚し始める夫のモラハラ。幸福感が閉塞感に、やがて殺意へとかたちを変えていく彼女の心理もそうだが、夫や堂本の振る舞いや言葉のつぶさに、無数の細かな棘が生えていて、少しずつ心に刺さっていく。それなのにぺージをめくる手が止まらなかったのは、この物語にはきっと誰にとってもおこりうる、現実の半歩先が描かれているからではないだろうか。

高岡遼 今日マチ子さんのマンガ版『吉野北高校図書委員会』2巻が発売中! 甘酸っぱい青春物語をどうぞ。ダ・ヴィンチニュースで続きが読めます。

 

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