【ダ・ヴィンチ2016年11月号】今月のプラチナ本は 『ニュクスの角灯』

今月のプラチナ本

更新日:2016/10/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『ニュクスの角灯』(1~2巻)

●あらすじ●

西南戦争によって身寄りを亡くした美世は、親戚の家に居候しながら食い扶持を稼ぐために、舶来品を専門に取り扱う道具屋「蠻」で売り子として奉公することになった。飄々として謎多き金髪の店主・小浦百年に、強面でぶっきらぼうだけど料理上手な岩爺。個性豊かなふたりの男たちと、働くこととなった美世だが、彼女にも特別な能力があった。それは、「触れた物の未来の記憶が見える」というもの──。
明治初頭、西洋文化の玄関口でもあった長崎を舞台に、海外からもたらされる最先端の品々と、それらに宿るベルエポックの興奮と喧騒が、小さな少女を大きな世界へと誘う。

たかはま・かん●熊本県天草生まれ。2000年、ガロ大賞佳作を受賞、04年、『イエローバックス』が『The Comics Journal』の「2004年ベスト・オブ・ショート・ストーリー」に選ばれる。これまでの著作に、『四谷区花園町』、『蝶のみちゆき』などがある。

本タイトル

高浜 寛
リイド社 各997円(税別)
写真=首藤幹夫 撮影協力:夢二カフェ 港や
advertisement

編集部寸評

 

いつの時代も、人は世界とつながろうとする

「アイ…ワズ アローン」「アイ アム ノット アローン……」。英語を学びつつある主人公・美世の、静かな、けれど力のこもったつぶやき。ここを読んだときに、思わず涙が浮かんだ。両親を失って熊本から長崎に移り住み、友達も恋人もいない美世が、自分はひとりきりではないと思えた瞬間。世界に対しておびえ、かつ憧れていた少女が、新しい言葉と自らの特技を使って世界とつながっていく様は、当時の日本の姿とも重なるし、多くの読者の共感を呼ぶだろう。次々に訪れる変化に翻弄されながらも、必死で世界とつながろうとするのは、いつの時代の人間も同じなのだから。そして世界とつながることが、そうそう簡単にはいかないのも世の常。ひとりではなくなった美世に、第3巻に向けて波乱の予感が。いよいよ注目の作品、追いかけて読むなら今!

関口靖彦 本誌編集長。当時の服装や食事、交易の状況などについてのていねいな下調べが、本作のあちこちに感じられる。小さなリアリティの積み重ねが、大きな物語を動かすのだなと実感。

 

「美世=美しい世界」本作に相応しいヒロイン

タイトルを見たとき、どんなストーリーかまったくわからず、何の先入観も持たずに読み始めた。(意味がわかると、なるほど!と思う)。両親を亡くし、叔母の家に引き取られた美世。引っ込み思案で不器用で、と厄介者扱いされていた彼女が、「蠻」ではその記憶力の良さや思慮深さ、好奇心などが認められ、きちんと仕事をしているさまはとても微笑ましいと思った。それと同時に、そうした彼女の資質がこの時代の女性としてまったく評価されないことは少し寂しくもあったが……。つい数十年前まで鎖国していた日本の人々にとって、欧州の文化が途方もなくきらびやかに感じられたことは想像がつくが、すでに日本独自の文化や技術も海外から注目されていたとは意外だった。百年とともに、きっと海外に出ていくだろう美世の今後の活躍がとても楽しみだ。

稲子美砂 『3月のライオン』特集、羽海野チカさんをはじめ、数々の取材でとても貴重なお話をうかがうことができました。みなさま、ありがとうございました。

 

美世の成長と欧州からの波を一度に楽しめる

食べたことのないお菓子、着たことのないドレス、使ったことのない道具。明治の長崎を舞台に、見たこともない欧州の文化を最初はこわごわ、でも好奇心旺盛に吸収し始める街の人々の姿が印象的だ。新しい文化にふれた時のトキメキ、そして震えるほどの畏怖。「私がめそめそうじうじ自分の事だけ考えとる間に世界は何だかすごい事になっとるんだ」。パリ万博の映像を見た美世の言葉が、これからの美世の成長だけでなく、日本という国の飛躍を表しているようで心躍った。

鎌野静華 ホイアンで夏休み。街の仕立屋で、金髪碧眼の美しい人がロイヤルブルーのイブニングドレスを仮縫い試着中。まるで少女小説のようでときめいた。

 

まさかの出会いでした(本文に続く)

馴染みの中華屋の暖簾を潜ると、狭い店内はオヤジwith瓶ビールのオンパレード。テーブル席に陣取って『鬼平犯科帳』が表紙を飾る『コミック乱』をめくっていくと『ニュクスの角灯』!? 驚いたのも束の間、オヤジたちの中で紅一点こそが硬派である。文字も、恋すら知らなかった少女が照らし出す世界はいつしか彼女自身の生き生きとした言葉で語られ、私は酔いの回った頭で考え始める。色っぽい骨董品の数々も楽しいが、主人公に自分を重ね合わせ立ち止まってみるのも、効く。

川戸崇央 ぴょこぴょこ歩く中華屋の大将はオムライスが入るとやけに嬉しそうで、たっぷりの焼き卵を手で包み込むようにして成形してくれる。アツアツ!

 

夢が詰まった「かわいさ」がいっぱい

冒頭、1944年。戦時中の熊本から始まる。“ブローチ”をキーに、そこから物語は1878年へと回顧。作品の中心に描かれるのは「モノ」の数々。パリ万博から仕入れられた品々……ドレスや時計、チョコレート、ランタン等々、どれも“女心”をくすぐるものばかりで、主人公を高揚させる。かわいい「モノ」には、気持ちを前向きにさせる魔法があるのだ(そして、すごく物欲が湧いてきてしまう)。主人公の夢のひとときと、現実が交差していく(だろう)今後の展開に注目。

村井有紀子 「男と、本。声優編」担当。良い声のインタビュー、至福でした。小説『騙し絵の牙』も最終回(塩田さんお疲れ様でした)&次号はNACS特集!

 

懐古を含めつつ浸る読み心地の良さ

チョコレートにブローチ、いい香りのするパウダー。現代の私たちにこそ日常だが、それまでの発想には皆無な新しい文化との邂逅に、鎖されていた島国の人々はどれほど衝撃を受け感動したことだろう。子どもの頃きらきらした何かと初めて出合い心躍らせた記憶が蘇る。美世たちの新鮮な反応を読みながら疑似体験する楽しさもあり。物や情報に飽き足りすぎている昨今、そんなピュアな感動ってなかなかお目にかかれない。人間関係もだいぶ見えてきた2巻。次巻への期待が募る。

地子給奈穂 今号をもって営業企画へ異動します。1年半あっという間……。異動先でも雑誌を受け持つので、ダ・ヴィンチでの経験活かして頑張りまーす!

 

モノが心を豊かにしてくれた時代

美世が新しいものに触れて、心底感動する姿が印象的だった。モノが心を豊かにしてくれる、素直な時代だったのだろう。今でも日々、新製品が開発されその便利さに驚かされることはある。でも、利便性や効率化とは全く異なる次元での、新たな文化に出会い享受するという喜びがこの作品には溢れているのだ。物語の冒頭が日本を物質的にも困窮させた第二次大戦下での回想からはじまるのも興味深い。モノと日本人の関係性を新鮮な切り口で描き出してくれる、そんな予感がした。

高岡遼 「男と、本。」特集担当。若本規夫さんにお目にかかり、強烈なオーラに圧倒されました。詳しくは、どうぞ若本小説(本誌P.191)をご確認下さい。

 

読者の声

連載に関しての御意見、書評を投稿いただけます。

投稿される場合は、弊社のプライバシーポリシーをご確認いただき、
同意のうえ、お問い合わせフォームにてお送りください。
プライバシーポリシーの確認

btn_vote_off.gif