【ダ・ヴィンチ2017年1月号】今月のプラチナ本は 『プリンセスメゾン』

今月のプラチナ本

公開日:2016/12/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『プリンセスメゾン』(1〜3巻)

●あらすじ●

主人公・沼越幸は、居酒屋で働く26歳の独身女性。年収は250万円ちょっと。そんな彼女の夢は、理想的な住まいを“買う”こと。運命の物件と出会うため、オリンピックを控えた東京でモデルルームめぐりを繰り返す。当初はそんな彼女の行動を不思議に思っていた不動産会社の女性たちも、幸のまっすぐな意志を次第に応援するようになり、自身の住まいや未来についても思いをめぐらせるようになる。ひとりで家を買うことは、無謀なのか、堅実なのか?
「家探し」を軸に、さまざまな女性の悲喜を描く群像劇。

いけべ・あおい●2009年「落陽」でデビュー。その後、『繕い裁つ人』の連載を開始し、同作は15年1月に実写映画化した。これまでの著作に『サウダーデ』『どぶがわ』『かごめかごめ』など。『プリンセスメゾン』は16年10月より実写ドラマが放映中。

プリンセスメゾン

池辺 葵
小学館 各552円(税別)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

今しかない、そして死んでゆけばいい

決めることって、こわい。結婚するとか、家を買うとか。これから何十年も、うまくやらなければならないのだから。だが本書を読んで、はたと気づかされた。「うまく」って何だろう。親にほめられることか? 周囲より“いい”物件をつかまえることか? いや、主人公いわく「自分以外の誰の心もいらない」のだ、本当は。そして「何十年も、うまくやる」ことがこわく感じるのは、死をおそれ、自分がいずれ死ぬことから目をそらしているゆえに、「何十年」が「永遠」であるかのように錯覚しているからだ。主人公の「いつまで生きられるかもわからないし、この先どうなるかわからないからむしろ今しかないって。」という言葉は、闇に差す光のように感じられた。むしろ今しかない、そして死んでゆけばいい。前を向いた開き直りに、力をもらった。

関口靖彦 本誌編集長。本作は群像劇になっていて、主人公以外にもさまざまな人物の「自分の心」とそれに合った住まい方が描かれるところが好き。青い鳥は自分の胸のうちにしかいないのだな。

 

26歳で家を買うオンナ、そのブレなさに興味津々

「大きい夢なんかじゃありません。自分次第で手の届く目標です。家を買うのに自分以外の誰の心もいらないんですから」。あなたは沼ちゃんのこの言葉をどんなふうに受けとめただろうか。「誰の心もいらない」――確かにそうだけど、ある種の覚悟とか切実さがそこに滲んでるような気がした。「努力するまえに卑屈になるな」も彼女の弁。年収250万円の彼女が日々コツコツとお金を貯めているさまは、それだけ聞くと「マイホーム取得のための努力」なのだが、彼女はとっても楽しそうで、モデルルームでみせるうっとりとした眼差しはまるで恋人を見つめているかのようだ。この若さで自ら求めるものに邁進していける強さとブレない気持ち。両親は40代で亡くなったというけれど、彼女がここまで「家」にこだわるのには、何か理由があるのか。彼女について知りたくなる。

稲子美砂 西加奈子さんの新作『i(アイ)』が素晴らしかった。『サラバ!』を経て、西さんはこんな境地にたどり着いたのかと震えてしまった。又吉直樹さんとの対談(本誌88P)も沁みる言葉多々。

 

住む場所を選びとるのは男も女も関係ない

同世代の親しい人が家を買った。私はそこでようやく、あれ? 私って大きい買い物をする年齢になっていたんだ……というかローンを考えると遅いくらいだな、と初めて思い至ったのだ。なので、沼ちゃんはまだ若いのにすごくしっかりしてる!と尊敬している。沼ちゃんの家への想いは、資産価値が、とかリスクが、とか結婚するかも?なんて関係ないほどまっすぐだ。自分が生きるために必要な場所を選ぶだけなのだから、沼ちゃんは正しい。彼女のまっすぐさが大好きだ!

鎌野静華 やましげさんがご結婚! そして流れ星の瀧上さんもご結婚&パパに! 担当の連載陣が相次いでお幸せになり、鎌野持ってる説浮上。……何を?

 

みんなが応援したくなる沼越さん

居酒屋でアルバイトして貯めたお金がマイホームに変わるという夢。「自分の人生は自分でなんとかする」という意地だけで生きてきたような女性が、借り物ではない自分の家を手に入れられるかもしれない……。モデルルームで沼越さんに出会ったら、そんな物語を一緒に探し求めたくはならないか。そして「欲しいものは手に入れてからが大事」。日々の選択はなんとなくでも済ませられるけど、あえて退路を断った暮らしのたおやかさまで描かれているところが池辺さんらしくて好き。

川戸崇央 かく言う私も1~2年前まで購入を検討しており、最近では賃貸暮らしを決め込んだつもりでいましたが、これを読んで……正直揺れました。

 

「生き方」は責任を持って自分で決めていい

会社まで20分圏内に住んでいる。広さもあるので、家賃代がバカにならない。先輩に「もったいない!」と言われ、さらに本書も読みつつ、マンションを購入しようかと考え(素直)、初めてショールームへ。すると、驚くほど、遠回しにしていたような「人生」がまっすぐに見えてきた。「自立」という言葉を携えて。日々、懸命に、働いている女性に読んでほしい。「住む家」を選択するこの物語のなかにあるのは、「自分」を肯定する強さだ。きっと「生き方」の選択肢が広がります。

村井有紀子 賃貸のままですが、上京以来、ずっと横浜に住みたかったことを思い出し、また引っ越そうかな~と考え中。でも、会社に来なくなりそうだ……。

 

生きる、を肯定する住まい

マンションやアパート住まいの都市生活を揶揄する言葉は無数にあるが、都会での暮らしは本当に無機質で無個性でつまらないものなのだろうか。本作はそんなことないと言ってくれる。いろいろな人たちが、それぞれに合った物件を丁寧に探し求める。彼女たちがたどり着く家は、お金でも、年齢でも結婚でもない、ほかならぬ自分自身の価値観の象徴でもある。様々な「住まう」のかたちが、自分だけの「生きる」を肯定していく。そんなやさしくも強いメッセージに励まされた。

高岡遼 BOTY特集を担当しました。と、ついこの間書いたばかりの気がします。今年の記憶があまりないです。春とかってちゃんとありましたっけ……汗

 

決めることは、こわいけど

こういうコトがあるかも、と推測して失敗を回避する。大人になって身につけるそんな賢さは、臆病さと紙一重。無数の「もしかしたら」に足をとられ、大事なことほど決められない。でも、本作の主人公・沼ちゃんはそんな臆病さと無縁。理想の物件めがけてまっすぐ進んでいく。先を考えると家を買うのは怖いという言葉に対して、彼女は言う。「いつくるかわからない日を待つよりは、今のベストをつかみたいんです」。人生の岐路を前に足がすくんだ時は、ぜひこの物語を。

西條弓子 私がいま決断できないのは今年のクリスマスケーキをどのお店のものにするか。何かを選ぶことは何かを選ばないこと……。苦しいです!!

 

 

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