歯科医が歯ブラシを薦めないのはなぜ? 本当は恐い歯みがきの常識【インタビュー】

健康・美容

2017/7/20

『歯はみがいてはいけない』(森昭/講談社)
『やっぱり、歯はみがいてはいけない 実践編』(森昭、森光恵/講談社)

 『歯はみがいてはいけない』(森昭/講談社)という衝撃的なタイトルの本が昨年ヒットした。著者は、京都府舞鶴でクリニックを開業する歯科医、森昭氏。現役の歯科医が日本の歯みがきの常識を覆すような提唱をしたことに日本中が驚いた。

 そして反響の大きさから続編『やっぱり、歯はみがいてはいけない 実践編』(森昭、森光恵/講談社)を緊急出版することに。なぜ同書が注目を浴びたのか。注目の本の著者である、森氏にインタビューを試みた。日本の歯みがきの常識ってやっぱりおかしい?

■もっと早く知っていれば…怒濤の反響


 「食事の直後に歯みがきをすることは、天然の自浄成分である“唾液”の効果を殺すことになります。食後は歯ブラシよりも、大切な唾液の通り道を確保するために“フロス”で口のお手入れをした方がいいのです。このことは、歯科医の間では約10年前から知られていました。けれども未だに、食後に発泡材や研磨剤入りの歯磨剤を使って歯みがきをして唾液の力を無駄にしているばかりか、歯や歯ぐきを痛めている人もいます。この現実をなんとかしたいと思い前著を書きました」(森氏)

 この森氏の信念に多くの人が感化されたわけだが、やっぱりタイトルに驚いた人も多い。誤解されかねないタイトルを付けた理由とはなにか。

 「思い切ったことを書かないと手に取ってもらえませんから。かなり“振り切った”タイトルだと思いましたが、本の真意を汲み取ってくれた方は多かったですね。感想で多かったのは、『なんでもっと早く教えてくれないんだ』という意見でした。歯科医に通っても真実を教えてくれないと。今作は、前著で寄せられた質問に応えるかたちで“実践編”というタイトルを付けました。具体的にどう歯の手入れをすればよいのかを記してあります」(森氏)

 『~実践編』では、歯みがきの仕方、特に歯間を磨く方法が具体的にしかもたくさん紹介されている。このきめ細かいお手入れ方法について書いたのは、森氏の夫人であり、歯科衛生士を務める森光恵さんだ。今回は、光恵さんによる解説も読みどころである。

■歯みがきの仕方は歯科衛生士に相談すべし


 そう、多くの人に知ってほしいのは、まず「歯科衛生士」という存在だ。

「歯みがきの仕方を教えてほしいという声が多かったのですが、もし私が患者さんからそのような相談をうけたら、1分以内に終わらせようと試みます(笑)。私のような短気な歯科医ばかりではないでしょうけれども、歯科医は多忙です。その代わり、歯科衛生士に相談してあなたにあった歯のケアをすべきです」(森氏)

「私たち歯科衛生士は、患者さん自身が気付かない歯みがきのクセや、歯ぐきの健康についてアドバイスいたします。例えば、定期的に歯ぐきが腫れる人がいます。それは疲労が原因なのか、それとも女性ホルモンの影響で歯周病菌が活発になっているのか。またみがき残しがある場合は、適した道具を使っているのかなど、あなたのお口の担当者としてじっくりカウンセリングいたします」(光恵さん)


 歯の治療は歯科医の仕事だが、健康を維持し病気を予防するのは歯科衛生士の仕事だ。そのため、良い歯科医院を探すなら、まず歯科衛生士が複数人在籍し、カウンセリングを行っているかに着目すべきだという。ただそのような「予防やケア」に力を入れているようなクリニックは、20~30軒に1軒というレアさだという。

■歯科衛生士ならフロスの太さまで熟知

 歯科衛生士にぜひ聞いてもらいたいのが道具の使い方だ。前著で強調されていたフロスの利用について。

「フロスが入らない、フロスを入れると痛い、という意見を聞きますが、それは歯に合わないからです。多くの場合、フロスが太すぎるのです。ただ奥歯にフロスを通すのは、慣れが必要です。口をグイッと大きく開く訓練が必要でしょう。ですが細い糸ならそんなに力まずに歯間にフロスが入るはずです」(光恵さん)


 ここで疑問に思った人もいるはずだ。フロスの太さって何だ? 日本では輸入品も含め数多くのフロスが販売されているが、「太さ」を記載したフロスは皆無である。せいぜい、ワックスの有無やミントの香りがついているか、である。

 そこで歯みがきグッズ店も手掛け、多くのグッズを見てきた光恵さんにフロス初心者が利用すべき一品を教えてもらった。それが、GCというメーカーが手掛けている「ルシェロフロス」である。

 フロスには、太い細いという違いがあったなんて、なぜ今まで誰も教えてくれなかったのか! これぞ現場と一般人との情報格差である。念のため申しておくが、光恵さんはメーカーとは懇意ではない。実際に販売されている数あるフロスを手に取り試した結果、このフロスが初心者に使いやすい細さと辿り着いたのである。

■舌回し運動でシミとシワも消える!?

 さらに情報格差として知っておいてもらいたいのが、舌の果たす役割だ。例えば口呼吸や、歯並びの悪さは舌の筋力不足が原因の場合もある。これらの口まわりのちょっとしたお困りごとも歯科衛生士が相談に乗ってくれる。

「舌は口だけではなく、全身の健康も左右します。例えば高齢になると、舌の筋肉が衰えてきます。その結果、口呼吸になると、唾液が蒸発しやすく、雑菌も容易に侵入します。舌の筋力はすなわち人間の生きる力にも通じます」(光恵さん)

 胃ろうをした高齢者が自力で食べられなくなる原因は、舌の筋力不足。舌を鍛えれば、食品を経口補給でき効率良く栄養を摂取できる。光恵さんは、舌の力によって生きる力を取り戻した例を何人も目の当たりにしてきたそうだ。

 舌の筋力といえば、森氏が推奨する「舌回し運動」である。上下の歯ぐきに沿って、舌を回すだけ。これを10回行うと首の後ろが痛いと感じるだろう。それは老化のひとつのサインである。首の後ろが痛いと感じた人は、ぜひ1日3回、舌回し運動を行ってほしい。劇的変化が起こるかもしれない…。


「世界最高齢でエベレスト登山を行った三浦雄一郎さんは、80歳のころから舌回し運動をはじめたそうです。すると、みるみるうちに、顔のシワ、そして顔中のシミが消えたそうです。シミは紫外線の影響ではありますが、代謝不良でも出てきます。舌回し運動は顔全体の血行を良くするので美容のためにもぜひオススメです」(森氏)

 さらに舌の筋力が衰えると、口先から舌が圧力を与え、歯が飛び出てくることも。健康効果ももちろんだが、舌が見た目に与える影響は大きい。

■3カ月に1回はクリニックを訪問しよう

 先に紹介したフロスでのお手入れと舌回し運動はいずれも、虫歯にも歯周病にも効果がある。なるべくなら歯科医にかからず自力で予防するのが好ましい。けれどもそこは上手に付き合ってほしいと森氏は言う。

「日本人の80%は口のなかに歯周病菌が常在しています。免疫力が下がったり、口内のバランスが崩れたりしたときに、歯ぐきが腫れるなど歯周病が顕在化します。けれども自覚してからでは遅いのです。歯周病菌が猛威を振るう前にクリニックにカウンセリングに訪れ予防してください。できれば3カ月に1回来ていただくのがいいですね。3カ月以上放置した歯垢は取りづらくなりますので。痛くなくても歯医者に来てください」

 自身で身につけるべきテクニックと、プロの経過観察。両方が揃って歯と全身の健康は保たれる。まずは「実践編」の本書を見て知識を補い、そして最適なクリニックと出会ってほしい。それが森夫妻の願いだという。

文=武藤徉子