【ダ・ヴィンチ2017年12月号】今月のプラチナ本は 『崖際のワルツ 椎名うみ作品集』

今月のプラチナ本

2017/11/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『崖際のワルツ 椎名うみ作品集』

●あらすじ●

膨らみ始めたおっぱいを気にしている小学生・まおは、周囲に触れられたくないあまり「さらし」を巻いて登校するが――。第二次性徴をむかえた少女の葛藤を描く「ボインちゃん」。特に理由もなく学校に行くのをやめてみた中学2年の内藤は、教師や両親から登校を迫られるうちに次第に追い詰められ……「セーラー服を燃やして」。可憐な容姿ながら全く空気が読めず、友達ができない華は、入部した演劇部で壮絶な大根役者ぶりを面白がる同級生・律とペアを組むことになる。律に嫌われたくない一心で華は練習に邁進するが……「崖際のワルツ」。思春期を生きる少女を描く3作を収録。

しいな・うみ●神奈川県出身。2014年「ボインちゃん」で「アフタヌーン四季賞2014 秋のコンテスト」四季賞を受賞。15年『アフタヌーン』にて同作でデビュー。短編「セーラー服を燃やして」「崖際のワルツ」を発表した後、16年『アフタヌーン』で『青野くんに触りたいから死にたい』を連載開始。

『崖際のワルツ 椎名うみ作品集』書影

椎名うみ
講談社アフタヌーンKC 590円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

ワルツを踊る二人に、理解は要らない

日本において〝空気〟を読めないことの重圧を描いた作品は数あれど、この一冊の〝いたたまれなさ〟はかなりのもの。周囲との断絶を悟った瞬間の、少女たちのテンパった顔が、これでもかこれでもかと出てくる……。だが本書は、読んでいる間はいたたまれないのに、読み終えたときには〝空気〟を突き抜けた感じがするのだ。それは本書の少女たちが「空気を読めるようになる」という従属を選ぶのではなく、「空気を読めないまま生きる回路を、泣きじゃくりながらもつかみ取る」という力技を見せてくれるからだ。とくに表題作は、自分がどう見えているかわからない大根役者の女子が、大根のまま演劇を通して〝空気〟を突破する、象徴的な一編。そして突破してなお、主役コンビの女子二人すら、互いをまったく理解はしていないし、する必要もないことのすがすがしさ!

関口靖彦 本誌編集長。〝空気〟という目に見えないものをマンガにする、著者のネームの構成力には圧倒されます。そして空気を読み合う女子たちの緊張感を、見事にとらえた絵の威力といったら……!

 

思春期は常に崖っぷち気分

椎名作品を評するとき、狂気という言葉がよく用いられる。しかし、それは果たして狂気なのか。著者自身は登場人物たちの行動を「おかしい」と思ってないとインタビューで答えていたが、自分の思春期を振り返ってみると、その気持ちはよくわかる。学校は職場のような共通の目的や利害がない分、当時はもっと感情的だったし、経験値が少ない分、刹那的で純粋だった。自然発生的な力関係でグループや序列が生まれることはあるけれど、そこにはなんの拘束力もない。誰か、もしくは自分の感情で世界が変わり、知らない間に自分がいじめの対象になっていたりもする。あの頃は誰しもが不安定で崖っぷちだったのではないか。仕事の義務感と固定観念で動く教師の気持ち悪さ、セーラー服を燃やす内藤のほうに親近感を抱くのはきっと私だけではないはずだ。

稲子美砂 「『100万回生きたねこ』40周年」企画を担当。シンプルで強い物語だからこそ、受け取り方は多種多彩。エッセイを併せて読むと、佐野洋子さんの人生観がわかってさらに楽しめます。

 

女の子が本当に怖い!

本当に怖い。「ボインちゃん」のまおちゃんは、気が弱い女の子として描かれているが、木の影で内藤さんと対峙する時の何かをあきらめた感じが、大人すぎて怖い。「セーラー服を燃やして」の先生はもちろん怖いに決まっている。そして「崖際のワルツ」の西園寺さんの表情は最高に怖い。なんで怖い女の子ばかりが出てくるのに読むのを止められないのか。見てはいけないものをのぞき見している感覚? 過去自分も通った道のような気もして思い出したくない、という気もする。

鎌野静華 家の近所にカフェがオープン。糖質は気になるが我慢できずにメープルココアラテを注文。う・ま・い。……はちみつミルクティーもおいしそ~!

 

椎名うみ、救済のスポットライト

単行本デビュー作で女子高生とユーレイの恋愛を描く椎名うみ。一見コミカルな設定だが、目を背けたくなるほどの醒めた人間観と、その闇を照らす光の危うい均衡に度肝を抜かれる作品だ。続く本著は、そのコントラストが短編の中に凝縮され、凄まじい余韻が漂う快作。愛や常識といったお仕着せの言葉に包み隠された暴力に傷つき、自己と向き合うことを余儀なくされた少女たちは、椎名うみの創作世界の中で光り輝く。死ななければ触れない、なら死にたい。それに尽きる。

川戸崇央 紗倉まなさんの初小説『最低。』(角川文庫)が発売一カ月で4刷まできました! 11月25日からは瀬々敬久監督による劇場映画が公開されます!

 

狂気を素直に冷静に描く

大変恐縮ながら、著者の作品を初めて読んだ。カバーの可愛さに誤魔化されるなかれ。作中ファンシーな絵柄が、逆に怖さへとつながる。どの作品にもぞっとするような狂気が、素直に冷静に、描かれているのだ。読み始めると、のめり込むようにこの著者の紡ぐ独特な世界へ惹きこまれ、一コマ一コマ、登場人物たちのセリフを読み落とせなくなる。「セーラー服を燃やして」の最後のやりとり。皆、自分を肯定してもらいたいだけなのかもしれない、と行間からふと考えた。

村井有紀子 本誌先月号の表紙&特集、大反響いただき緊急重版に! ありがとうございました。今月号の大泉さんは北海道で撮影。大泉洋にひとめ惚れ!(笑)

 

呼び起こされる〝痛み〟

140頁ほどに短編が3本入っているだけなのに、読み終えたらヘトヘトに。それなりにマンガを読んできたつもりだったけど、この作品はなんだろう。登場人物の言動の急加速&ブレーキぶりが心にくるのだ。ボディーブローの効いた読後感に浸りながらだんだん判ってくる。あ、これって自分がかつて乗り越えた痛みだ。うまく生きる為、心を体に調律して安定させる。それができなくて精神のドライブに身を任せてしまう痛みを本作は呼び起こすのだ。これは忘れられない一冊になりそう。

高岡遼 「虚淵玄」特集を担当。ジャンルも形式も変えながらヒット作を手掛けてきた虚淵さん。なかでも最新作『TBF』は本当に傑作。詳しくは特集にて!

 

「人の気持ち」なんてわかるわけない

何が最高って、女子の友情がまるで分かり合えないまま成立していることだ。共感を旨とするコミュニティにおいて「どうせ訊いてもあんたの気持ちなんてわかんないもん」と言いつつ隣に座ってくれる友人のなんと得難いことか。対象的に描かれるのは、人の気持ちを勝手に解釈する大人、空気を読まない異物を赦さない子ども。そういった傲慢さが見えすぎてしまうから、思春期は修羅。でもその先で「わからないけどそばにいたい」友人と出会えるなら、こんなに素敵なことはない。

西條弓子 ダ・ヴィンチニュースの新連載『朝起きたらブスだった』を担当。タイトルどおりの状況の男子が努力で美少女になってゆく感動の成長物語です!

 

 

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