タダより高いものはない…。インターネットのサービスにひそむ落とし穴

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更新日:2018/1/15

『インターネットは自由を奪う――〈無料〉という落とし穴』(アンドリュー・キーン:著、中島由華:訳/早川書房)

 Google、Facebook、Twitter、YouTube、LINE、Wikipedia……いまやインターネット上のこうしたサービスは私たちの生活になくてはならないものだ。いつでも誰でも使え、便利でお得なサービスだと思っているが、果たして本当にそうだろうか。

『インターネットは自由を奪う――〈無料〉という落とし穴』(アンドリュー・キーン:著、中島由華:訳/早川書房)では、シリコンバレーのIT起業家でもある著者が、ネットサービスに依存する現代社会へ警告を発している。

 曰く、インターネットは公平で開放された理想のシステムなどではなく、むしろ経済格差を拡大させ、行動がビッグデータに収集される監視社会を生み出し、私たちに幸福よりも不幸をもたらすというのだ。

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 ネットサービスは未来の希望ではなく、将来の課題だと訴える彼の主張の一部を読み解いてみよう。

■ネット通販は利益を奪う

 ネット書店の最大手Amazonの創業時、小さな出版社はその存在を歓迎したという。実店舗では置きにくい専門書や新書を扱っている小さな出版社でも、公平な市場競争に参加できるからだ。また電子書籍リーダーを開発し、出版物のデジタル移行にも貢献した。著者もAmazonは間違いなく便利で、信頼でき、有用であると述べている。

 しかし、その一方で影響力が高まり、電子書籍の価格決定において出版社と衝突するようになった。競争力の弱い実店舗の廃業が相次ぎ、書店の数はアメリカでは以前の半分に落ち込み、相当な雇用が失われたという。日本でも話題になったが、即日配達のサービスは従業員や配達員の負担に支えられていた。Amazonではすでに是正が進んでいるが、こうしたネットビジネスの影響がいつ自分の身に及ぶか、皆さんの業種も他人事ではいられない。

■SNSは交流を奪う

 世界に13億人のユーザーがいるというFacebookは、1分間に246万個のコメントがやりとりされ、中東の国々では民主化運動のきっかけとなったツールだ。だが、Facebookで他人の生活を覗けるようになったことで、他人を羨み、悲しい気持ちになる人も急増している。2013年、ドイツのフンボルト大学がユーザー600人を対象にした調査では、「孤独感、怒り、不満」を感じている人が60%にも上ったという。

 SNSの双璧としてFacebookと並ぶインスタグラムでは、自己愛が流行している。公序良俗に反した自撮り投稿で非難を浴びる人は非常に多い。SNSに意見や写真を投稿していない人の存在を意識できず、配慮が欠けてしまう。長年、アメリカ人の意識調査を行っているピュー研究所の2014年の報告書では、18歳から33歳の「自撮り世代」は、他人への信頼が低く、他人と討論を避ける傾向にあるという。人間関係のほとんどが自分とスマートフォンの数センチの間で行われるようになり、本来の交流が失われていると危惧する。

■無料は選択を奪う

 本書で、繰り返し指摘するのは、トップ企業による「ファーストムーバーアドバンテージ(先行者優位)」で市場が勝者総取り状態に陥っているということだ。

 無料サービスだからと安易に飛びついていると、いつかそれしか選べなくなるかもしれない。そうなってから後悔しないよう、インターネットとの付き合いを改めて考えたい。

文=愛咲優詩