中小企業の休廃業・解散数は増加傾向――「後継者不在」にあえぐ日本企業の選択肢として注目されるM&A

ビジネス

2017/12/21

『M&Aという選択』(畑野幸治/プレジデント社)

 時折ニュースで見かける「M&A(エムアンドエー)」という言葉に、どんなイメージを持っているだろうか。経済通ならいざ知らず、「のっとり」やら「身売り」やらちょっとコワいなんて人、案外多いんじゃないだろうか。

 ところが『M&Aという選択』(畑野幸治/プレジデント社)によれば、このM&Aというものは、実は未来の日本を救うかもしれないハッピーな企業戦略といえるらしい。一体、どういうことなんだろう?

 現在、国内企業の3分の2以上が「後継者不在」の状態にあるという。中小企業なら子どもなどの親族に継承するイメージがあるが、経済状態の先行き不安や価値観の多様化などが影響して、20年以上前には8割を超えていた親族内継承もここ10年ほどの間で約5割に減少したという。

 問題は後継者不在の企業の未来はどうなるか、だ。実は2016年は企業の休廃業・解散数が2000年以降、過去最多を記録した。倒産数は8年連続で減少していることから、本来であればまだ体力の残っていた企業がやむなく休廃業を選択したことになる。

 ちなみに2015年の経営者の平均年齢の山は66歳であり、現在の平均引退年齢が67~70歳であることを考えると、あと5年以内には一気に多くの経営者が引退の時期を迎えることになる。実際、2016年に休廃業した企業の代表者の年齢は60歳以上が8割以上とのことで、徐々にそうした未来も現実に。このまま事業継承が円滑に進まなければ、計算上では2030年には日本の中小企業が消滅……なんて恐ろしい未来も予想される。

 では後継者のいない中小企業はどうしたらいいのか? そこで有効になるのが「M&A」なのだ。M&Aとは「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略で、会社同士が合併したり、どちらかがどちらかの株式を買ってグループ会社化したりすること。それを中小企業目線で考えると、「子どもや親族、従業員以外の第三者に事業と資本を継承してもらう手段」となる。幸せなマッチングが叶えば、M&Aによって創業者の思い、独自の技術やサービスが引き継がれ、従業員の雇用は守られ、経営者およびその家族が生活に困らないだけのお金も確保できる。社会的な要因から個人では立ち行かなくなった企業の未来を守るために、幸せな選択肢となるのだ。

 もちろん財務状況や経営方針、企業カルチャーの譲渡相手との擦り合わせ、売却額の決定など実現に向けて乗り越えなければならないハードルは多々ある。業績のいい時のほうが売りやすいし、買い手もつきやすいというタイミングの問題もある。だからこそ、いざピンチに直面する前にM&Aのことを知り、選択肢のひとつとして考えておくほうが得策といえるのだろう。

 自分は経営者ではないからM&Aとは無縁だと思っている人もいるかもしれない。しかし、近所の行きつけのラーメン屋さんが後継者不在で店をたたんでしまった、というケースも、M&Aによって救うことができるのだ。お店はもちろん、これまでの味や技術を受け継ぐことで、長年親しんだお店を存続させることができる。そう考えるとM&Aは案外とても身近なことなのかもしれない。この先、実際に仕事の現場で役立つこともあるかもしれないし、今のうちに本書を入門書として手に取っておいて損はないだろう。

 なお著者の畑野幸治氏は中小企業経営者のあらゆる問題解決をサポートするM&Aプラットフォーム事業を展開する企業・FUNDBOOK(ファンドブック)の代表取締役CEOとして多くのM&Aを手がけてきた人物。実父の勤めていた山一證券の自主廃業によって家族が追い込まれ、人生が激変した経験から「廃業は悲劇しか生まない」ことを確信したという。辛い実体験があるからだろう、その言葉は多くの経営者の心に届くよう、わかりやすく確信に満ち、そしてやさしい。「M&Aは、会社にかかわるすべての人たちへの、経営者からの“愛”」との言葉が新鮮だ。

文=荒井理恵