これからは小さい会社の時代。逆転の発想「一人経営」とは

ビジネス

公開日:2018/2/5

『会社は「1人」で経営しなさい』(山本憲明/明日香出版社)

 起業に憧れはあるけれど、経営者はキツそうだし、第一、倒産したらどうしよう…と不安が先立ち躊躇を感じる人も多いことだろう。でも一度肩の力を抜いて本書『会社は「1人」で経営しなさい』(山本憲明/明日香出版社)を読んでみよう。起業への不安が払拭できるかもしれない。著者の山本憲明氏は会社勤めののちに、税理士事務所を開業、自ら小さい会社を営む経営者だ。

 山本氏は経営の目的を経営者自身の幸せに合わせ、むやみに成長を目指さないこと、社長ひとりの会社とすることなどを「一人経営」として提唱している。本書にはその必勝法が紹介されているが、それらは驚くべき逆転の発想ばかりだ。

 まずは、会社の規模についての考え方だ。売上や利益の目標を自分にとって必要なサイズに合わせるという、その名も「逆算式経営計画」だ。必要な生活費、税金から、給与、粗利の順番に目標を決めていくのだ。

advertisement

 そしてコストダウンのコツは“やめること”にあると言う。従業員を雇わなければ、人の管理コストが不要になるし、営業しなければ営業経費もないわけだ。代わりに必要なことは客が来る仕掛け作りだとか。そうすれば、収益目標自体を下げることができるからだ。

 圧巻は“いかに労働しないか”という考えだ。「働く対価として報酬を得る、といった概念さえも捨てるべき」とさらりと言ってのける。経営者は、自由時間を作り、新しいことを考えるべきなのだ。そのコツは「無用の用」を意識すること、つまり、必要性よりは、なんとなく好きや思い付きで遊ぶことなのだという。好きを応用することが何より大事なのだ。そして、ひとつ小さな事業ネタを作ったらその周辺に広げていって目標の会社規模に近づけていくのだ。

 一方で会社をつぶさないコツを、ずっと小さく保つことだという。そのためには成長ではなく、社長の年収も売上も減らすことを心がけるべきなのだ。仮に困ったことが起きても、行き詰った際にも“割とどうでもいい”と思う楽観的態度なども「一人経営」の心がけとして必要だと述べる。

 本書は、自分の人生と経営を一体化させれば、成功の尺度も、その道筋も大きく変わることを示唆している。健康でいるコツを、人と過度に会わないことだ、とするあたりはドキリとさせられる。チャンスあれば人に会い自分の幅を広げようとする欲は、一方でストレスを増加させることになるからだ。

 当たり前だが、事業ネタや資金は経営者自身が作り出さねば始まらない。それは大きなハードルに見える。しかし、著者が示唆する自分にとって本当に必要なものだけにそぎ落としていけば、そのハードルは意外に低いのかもしれない。サラリーマンは、会社勤めで習い性になってしまった“当たり前”をいま一度見直し、自分の得意・好きから「一人経営」を発想してみてはいかがだろうか。

文=八田智明