ドロドロすぎて絶句…知られざる上流階級の世界。一般庶民が芦屋の大富豪に嫁いだ結果…

マンガ

公開日:2018/2/11

『やんごとなき一族』(こやまゆかり/講談社)

 王子様に見初められて玉の輿に乗ったシンデレラは、果たして幸せに暮らせたのか。そんな煽りで始まるマンガ『やんごとなき一族』(こやまゆかり/講談社)。王子様の隣に立つ身に求められるのは一般的な良妻スキルなどではない。どれほど万能に家事ができても、気の利く働き者でも、世情にあかるく、社交界のTPOをわきまえたマナーを身に着けていなければ意味がない。同作は一般人には知る由もない常識に満ちた上流階級に嫁いだ、超一般庶民・佐都を主人公に、骨肉の争いやプライドをかけたキャットファイトを描いた作品だ。

 父を亡くし、母とふたりで大衆食堂を切り盛りする佐都の彼氏・健太は、常連たちともあかるく飲み交わす気さくで優しいイイ男。だが彼の出自は、芦屋に豪邸をかまえるお家の次男。芦屋といえば、日本有数の高級住宅地だ。なかでも健太の実家・深山家は、徳川の時代から400年以上も続く歴史に名を残す旧家。そんな一族が、店の借金も奨学金も返済中の庶民をやすやす受け入れるはずもなく。結婚の挨拶を許されたと思いきや、騙し討ちのように門前で追い払われて、高額小切手をちらつかせながら生まれ育ちを侮辱され。尊大で傲慢な態度を当然としか思わない健太の父に、しょっぱなから圧倒されるところから物語は始まる。




「奥様」という肩書は、とくに上流階級においては職業の一種だ。しかも健太は次男なのに、長男をさしおいて跡取りへと望まれており、佐都に求められるものは他の嫁たちに比べても重大。深山家の人たちは確かに人としてどうかと思うが、「佐都のような育ちの女に跡取りの嫁がつとまるわけがない」という主張も一理ある。着物の柄に関するルールも知らず、招待客の前で大恥をかいてしまった佐都は、自分のふるまいは健太の評価を落とすことにもつながると悟り、正々堂々と妻であるため、芦屋の作法と深山家のしきたりを学ぼうと決めるのだ。

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 ……が。

 義父の目的はそもそも、健太を後継ぎとして家に引き戻すこと。佐都との結婚を認めるふりをして、いずれ離婚させようと画策している。義母は積極的に害をなしてはこないものの、夫の顔色をうかがうばかり。長男の嫁は、後継ぎの立場を奪われた悔しさに地団太を踏み、しかも健太に横恋慕。自身の築きあげた立場を利用して、親戚のおばさまたちを味方につけて、佐都を陥れようと目論んでいる。健太が全面的な味方とはいえ、日中はひとりなのだから孤立無援も同然だ。本当はあたたかな家庭がほしい、家族と団欒したいという健太の願いを叶えるべく奮闘する佐都だが、果たしてどうなることやらと1巻は隅々まで波乱に満ちている。


 作者のこやまゆかりさんは、1月26日よりドラマ放送が開始した『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)の原作『ホリデイラブ~夫婦間恋愛~』の作者でもある。夫の浮気以上に、浮気相手のしたたかな攻撃に注目が集まるドロドロかつハラハラの人気作だ。本作では健太が浮気しそうにないのが救いだが、そのうちきっとハニートラップが仕掛けられるだろうし、関わる人間が多いだけに『ホリデイライブ~夫婦間恋愛~』以上に先が読めない。昼ドラ展開が大好きな読者にはたまらない最上のエンターテインメントなのである。

文=立花もも

(C)こやまゆかり/講談社