「働き方改革の不都合な真実」 大事な改革の“副作用”を見極める一冊

ビジネス

2018/2/21

『「働き方改革」の不都合な真実』
(常見陽平、おおたとしまさ:著/イースト・プレス)

 このところ「働き方改革」に注目が集まる一方で、「なんか変だぞ?」の声が次第にあがりはじめている。
 たとえば、長時間労働抑止のため「残業禁止」を厳命されたらかえって苦しくなったり、自主的に早朝出勤を余儀なくされたり。

 本来なら「個性や事情に応じた多様で柔軟な働き方ができる社会」を実現して、働く人のワーク・ライフ・バランスを向上し、社会の生産性もあげていこうというものだったはずなのに、むしろ生まれているのは逆の結果。一体何が起こっているのだろう…。
『「働き方改革」の不都合な真実』(常見陽平、おおたとしまさ:著/イースト・プレス)は、そうした「働き方改革」の抱える欺瞞や矛盾をするどく指摘し、働く人それぞれが自分の問題として考えるよう問題提起する一冊だ。

■うわべだけの働き方改革に感じる“胡散臭さ”の正体は?

 著者は働き方評論家として大学講師も務める常見陽平氏と、長男誕生を機に脱サラし現在は教育・育児ジャーナリストとして活躍中のおおたとしまさ氏。実は両者とも成果主義を先駆的に実践してきたリクルート出身者であり、超シビアな現場をくぐり抜けてきたからこそ持ちえた俯瞰的な視線が印象的だ。

 そんな彼らは「働き方改革の方向性に反対なのではない。その“副作用”を明らかにしなければ本当に社会は変えられないのに、それを議論しないのは不誠実」だと、オンラインニュースやイベントで繰り返し訴えてきたという。本書はその結実ともいうべきもので、「働き方改革」で本来議論されるべきポイントについて、互いに言いたい放題意見をまじえる対談形式の本となっている。

 そのペースは第1章から「ニッポン一億総活躍プランが気持ち悪い!」と威勢がよい。ふわっとキャッチーに「一億総活躍」と名付けたものの、音頭を取る政府には「一億通りの働き方を応援したい」なんて気持ちはさらさらなく、狙うのは「戦後最大の名目GDP600兆円」。少子高齢化など社会システムがどんどん変わっていくのに、求めるのは相変わらず「経済成長」っておかしくないか?

 しかも他のビジョンはあまりないって、結果的に喜ぶのは一線から身を引いた高齢者や投資家だけなんじゃ?…などなど、なんとなく感じていた疑問をことごとく明快に「言葉」にしてくれるのが実に小気味よい。

■「転職しやすい社会」は、いいことばかりではない?

 目下話題の「ホワイトカラー・エグゼンプション」(知的労働者を労働時間規制の適用外にすること)にしても、「自由裁量」というと聞こえがいいが、現状の延長なら「労働時間の見えない化」「人の定額使い放題化」につながるだけ。
あるいは人材の流動化をめざした「転職しやすい社会」にしても、実は「解雇しやすい社会」「不安定な社会」と表裏一体であり、いざ転職となってもなかなか新領域にチャレンジできないのが現実。
「女性の活用」についても、制度を整えても実現までには“心理的な壁”が存在する…など、こうして一部を紹介するだけでも実に問題山積だ。

 このほか、正社員と非正規雇用の格差拡大といった大問題もあり、今の流れで改革が進めば企業が有利になるばかりで格差は広がる一方。「大事なのは働き方改革ではなく稼ぎ方改革!」との主張には納得だ。

■「働き方改革」は自分らしい働き方を考え直すチャンス!

 本書にはあえて「こうしたらいい」という安易な答えはない。大事なことは、こうした「困難な現実」を働く当事者が把握した上で、「自分」と「社会」の未来をどうしたらいいか真剣に考えることだと強く発信する。お上からいわれた流れにただのるのではなく、自ら自覚的に考えること。そうした一人一人の前向きな意識からしか本当の変化は起こらない。むしろそれで変化するならば前向きになればいい。そんなシンプルな事実に気づかされ、鼓舞される一冊だ。

文=荒井理恵