私たちの意思決定を左右する“脳の罠” ノーベル賞で注目される行動経済学とは?

ビジネス

2018/3/1

『世界は感情で動く 行動経済学からみる脳のトラップ』(マッテオ・モッテルリーニ:著、泉典子:訳/紀伊國屋書店)

「行動経済学」という研究分野をご存じだろうか?
 最近では、2017年のノーベル経済学賞が、行動経済学を専門とする米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授に授与された ことで注目された。人間が必ずしも合理的に行動しないことに注目し、心理学の理論を応用して、経済行動を分析する学問だ。

 なんだか難しそう…と思う方もいるかもしれないが、実は私たちの生活に密着した学問。『世界は感情で動く 行動経済学からみる脳のトラップ』(マッテオ・モッテルリーニ:著、泉典子:訳/紀伊國屋書店)では、身近な行動から社会現象まで幅広く例を挙げ、過去の研究結果なども交えながら、人間の非合理的な行動について分かりやすく解説している。著者によれば、私たちの脳は過去の経験をもとに物事を「決めつけ」ようとする特徴があるという。このような「脳のトラップ(罠)」に引っかからないようにするために、行動経済学が役立つのだ。

■予言の自己成就:人々の勝手な予測で銀行が倒産することも!

個人が自己の予測や願望に沿うような行動をとった場合、社会現象としてその通りの結果が出現すること。(以下略)

 これは「予言の自己成就」と呼ばれる現象。例えば、確実な裏付けがなくても、あるきっかけから人々が「銀行が倒産する」と予測すると、預金の引き出しに殺到し、結果として本当に銀行が倒産してしまう。

 インターネットで世界中がつながる現代のサイバー社会では、「予言」のスピードとパワーは半端ではないと著者は指摘する。

■原因と結果の相関関係:タバコを吸えばがんになる?

 目の前で起こっている現実を解釈するためには、原因と結果の関係が重要。そのため、真に因果関係のあるものと、因果関係のほとんどないものとを見分けることが大切だ。

 例えば、本書によればコーヒーの消費と肺がんの間には、統計的には相関関係がある 。しかし、肺がんの原因となるのは主にタバコの煙なので、コーヒーの量を減らしてもがんになる可能性は減らない。愛煙家にコーヒー好きが多いために、相関関係が生じているからだ。さらに、タバコががんの原因になるといっても、一本でも吸えば誰でもがんになるわけではない。

 原因と結果の関係を考える時には、少し立ち止まって、多角的に考える必要がありそうだ。

■バーナム効果:その占いは当たっているのか?

だれにでも当てはまることがありそうな曖昧で一般的な性格(パーソナリティ)に関する記述を、自分だけに当てはまるものとして受け止めること。(以下略)

 これが「バーナム効果」。星占いやトランプ占い、手相などの「占い」や「性格診断」では、この効果が利用されている。ここで働くのは「願望的思考」といった心理的メカニズム。性格占いや星占いなどの予測が曖昧でも、私たちの期待や願望がひとつでも満足されれば、「当たっている」と感じるのだ。

 つまり、このような占いから分かるのは、私たちが何を求めているのか、どんな人間になりたいのか、ということなのかもしれない。

 論理的、客観的に分析していると思っていても、無意識のうちに「脳のトラップ」に引っかかってしまう私たち。インターネットにアクセスすれば、世界中から無数の情報が入ってくるが、その中には「脳のトラップ」を利用したものも多々あるだろう。そんな情報に振り回されないためにも、本書で「脳のトラップ」を回避する方法を確認してみてはいかがだろうか。

文=松澤友子