部署にいるとなぜかうまくいく!『宇宙兄弟』南波六太のような「次世代リーダー像」とは?

ビジネス

更新日:2018/7/2

『宇宙兄弟 「完璧なリーダー」は、もういらない。』(長尾彰/学研プラス)

 どっかの国の大統領や大企業の社長など、いかんなくカリスマ性を発揮して人々をまとめあげる「リーダー」たちが存在する。彼ら先導ぶりには憧れるばかりだ。しかしこれからの時代は、彼らのような存在ではなく、もっと人間味ある人物がリーダーに向いているかもしれない。

 そう説くのが『宇宙兄弟 「完璧なリーダー」は、もういらない。』(学研プラス)だ。著者で組織開発ファシリテーターの長尾彰さんは、優秀な人がリーダーになるのではなく、リーダーシップを発揮した人がリーダーになると断言している。誰もがリーダーになれるというのだ。

 そしてそれを体現しているのが、あの人気漫画『宇宙兄弟』(小山宙哉/講談社)の主人公・南波六太だそうだ。本書では、『宇宙兄弟』のエピソードを軸に、誰もがリーダーになる秘訣を解説している。

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 かつての日本企業は、優秀な人材が「長」という肩書と共に組織を率いることで、目まぐるしい成長を遂げてきた。しかし現在は、社会の変化のスピードが格段に速まり、変化し続ける予測不能の環境の中で成果をあげる必要が出てきた。自信満々で「俺についてこい!」と叫ぶリーダーは減り、個々が自分で責任を負いながら行先を考える「総リーダー」時代が訪れたのだ。

 そこで思い浮かべてほしいのが南波六太だ。長尾さんは、彼のような存在を「愚者風」リーダーと名付けている。一見、優秀な人物とは思えない彼らは、先頭に立って引っ張るというより、「どうすればいいと思う?」と、チームや相手の意見を聞きたがる。具体的なアクションについても命令や指示ではなく、「私はこうしたい・こうしてほしい」といったニュアンスで伝える。また、自分が完璧ではないことを理解しているので、相手にも完璧を求めないし、勝ち負けや優劣をつけることに価値を置かず、常にフラットだ。

 誰もがイメージする「賢者風」リーダーとは正反対のような存在の六太だが、彼がチームにいるとなぜかうまくいく。たとえば、宇宙飛行士の選考で行われた閉鎖環境ボックスでの生活の場面。六太のいるA班は、絵に描いたようなリーダーシップを発揮する人は誰もいない。そのおかげか、メンバーの発言力に優劣がない。「現在の時刻を推測する」という課題も六太だけ違う意見を発して、見事正解を導き出せた。

 また、「グリーンカード」が登場してチームの雰囲気が悪くなった場面。グリーンカードとは、意図的にチーム内にストレスをかけ、それにどう対処するか見るための極秘指令を書いたカードのこと。この指令を受けた人物は、嫌でもチームに内緒でトラブルを発生させなくてはならない。その結果、あるものが壊され、Aチームの雰囲気が一気に悪くなってしまった。ところが六太は、怒りで「犯人探し」に燃えるメンバーに同調することなく、「宇宙の話をしよう。僕たちは宇宙飛行士になるんだから、犯人探しは探偵の仕事です」と諭して、悪い流れを断ち切ろうとした。なにより、実は犯人を偶然見かけていた六太は、あとでこっそり呼び出して「なぜあんなことをしたのか」と直接問いかけた。犯人を見つけてトラブルを「解決」するのではなく、その原因を探って根本から「解消」しようとしたのだ。

 愚者風リーダーに共通しているのは、決して人の上に立とうとせず、自分が必要とされる出番を待っていること。チーム全体を見渡して常に相手の立場や目線を考えながら、発言や対応をしていく。チームがよりよくなるよう「結果」ではなく「プロセス」を重んじ、みんなでチームを作り上げようと努力する人物だ。

 賢者風リーダーのように、常に正解を導き出すも結果にこだわる必要もない。5人のチームならば、5人が持ち回りでリーダーになる。誰もしんどくない、お互いの長所を活かしあう環境を作り上げることができる。

 これからの時代を率いる次世代のリーダーの可能性は、南波六太から見出すことができる。本書はそれをじっくりと説いているのだ。

 一方で本書は、次世代のリーダー論だけでなく、人としての生き方も説いているように感じる。六太とNASAの宇宙飛行士ビンセント・ボールドが「敵」について語りあうシーンがある。そのとき六太はこんなセリフを放った。

「俺の敵は、だいたい俺です」

 マンガ『宇宙兄弟』を読んだことがあれば、このセリフに思わずドキッとした人も多いだろう。社会を生きていると、どうしても競争に巻き込まれる。もしくは馬の合わない人と出会うこともある。何か嫌なことや辛いことがあるたび、私たちは「敵」のせいにしがちだ。しかしそんなことを繰り返していては疲れてしまうし、楽しくない。だからこそ「無敵」を目指したい。

 この無敵とは、「はじめから敵なんて存在しない」と考えることだ。どんな競争に巻き込まれても、どんなことを言われても、目の前の「敵」を意識するのではなく、自分のやりたいこと・やるべきことに集中する。そうして本物の「無敵」になれば、ストレスから解き放たれるかもしれない。

 私たちの毎日は頑張らなければならないことの連続だ。リーダーとして頑張るとき、リーダーの後ろを必死でついていくとき、しっかり自分の人生を歩もうともがくとき。それぞれの場面で私たちは、うんと力を込めて前に進もうとする。そしてそんな日常に疲れて、家で「うーん」と寝込んでしまうこともある。本書はそんな私たちに、「ほどほどに力を抜いてもいいよ」「もっと仲間を頼りなよ」と心強いメッセージをくれる。

 最後に、それでも明日を頑張りたい人にこの言葉を贈りたい。

「It’s a piece of cake」

 あなたなら大丈夫だ。きっと上手くいく。「楽勝だよ」。

文=いのうえゆきひろ