たくましく生きる朝ドラのヒロインたち。毎朝の15分間に働く女性の本音が詰まっていた

エンタメ

2018/5/14

『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる(ちくま新書)』(矢部万紀子/筑摩書房)

 テレビを見る人が少なくなった、と言われて久しいが、それでもNHKの大河ドラマ、そして連続テレビ小説(俗に言う朝ドラだ)が、視聴者や撮影される地域に与える影響力は大きい。少し前には「じぇじぇじぇ!」という不思議な響きの言葉が流行語になったり、朝ドラがきっかけで大ブレイクした役者も多い。

『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる(ちくま新書)』(矢部万紀子/筑摩書房)は、矢部万紀子さんが朝日新聞のウェブサイト「WEBRONZA」で連載していた、朝ドラに関するコラムを書籍にしたものだ。その作品を見ていた人は「ああ、わかる!」と頷き、見ていなかった人には、「そんなシーンがあったのね」と、興味を湧かせる1冊になっている。ヒロインだけでなく、「東出さん(東出昌大)はハンサムな夫なのか問題」など、その恋の相手役である俳優に対する評価も辛口で楽しい。

 私が唯一通しで見た作品は「あまちゃん」(2013)なのだが、特に印象深かったシーンについて言及されていたので一部紹介させていただく。

 ヒロイン・アキは、母親である春子から「地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もないパッとしない子」と評されるような女の子だ。本人もそれを認めている。しかし、そんな彼女が海女という職業に出会い、物語の舞台である北三陸でたくさんの人と出会っていく中で、少しずつ周りの人間を引きつける存在になっていく。

 アキがアイドルとしてスカウトされ、東京に出て行くとき、アキは「ねえ、ママ。私変わった?」と春子に問いかける。

 春子はこう返す。

「変わってないよ、アキ。昔も今もアンタは、地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もないパッとしない子だけどね、だけど」
「みんなに好かれたね。ここで、みーんなに好かれた。アンタじゃなくて、みんなが変わった。自信持ちなさい、それはすごいことだから!」

 たとえそれが芸能人やアイドルでなくたって、誰かの存在が誰かを励まし、変えていくことは、実は珍しくない。落ち込んでいたとき、同僚の一言で気分が晴れたり、好きな人にほめられただけで一日中うれしくなったりすることは、誰にでもあるはずだ。

 著者の矢部さんは、「あまちゃん」の中に隠された「人がいるところにアイドルあり」というメッセージを、この台詞から見抜いている。

 働く女子と一言で言ってもそのあり方はさまざまだ。朝ドラに出てくるヒロインたちも、目指すもの、職業、家族や恋人とのあり方、どれひとつとして同じものはない。共通することは、どのヒロインも毎週毎週困難があって、それを乗り越えようと奮闘している点だ。

 朝ドラが放送を開始した1961年から今日まで、女性が自分らしく生きていくにはまだまだ問題の多い世の中だ。そんな中で、時にかっこわるい姿を見せながらもたくましく生きるヒロイン達に、視聴者は共感し、応援したくなるのだ。

 今私は、電車に揺られながらこの文章を書いている。時刻は7時前、BS放送でもまだ朝ドラが放送されていない時間だ。そして私の横には疲れた表情で眠っている女の子(新卒くらいの年齢だろうか)が座っており、全然起きる様子を見せず、とうとう私の肩に頭をもたせかけた。起こしてあげるべきか、だけどこの時間から出勤しなくてはいけない大変さもわかるから起こせない。

 たとえ高畑充希が演じた「とと姉ちゃん」のようにいつも前向きでいられなくても、有村架純が演じた「みね子」のように家族の危機を明るく支えられなくても、自分というドラマのヒロインだ。

 朝ドラよ、どうかこの女の子や、日本中の働く女性たちに笑顔と元気を分けてあげてほしい。

文=音田アユム