「今の少年ジャンプには何が足りない?」。歴代編集長とIT技術者が語る「ジャンプのミライ」とは

アニメ・マンガ

2018/5/15

『少年ジャンプ』2018年5/28号(5/14発売)

 コミック誌の売り上げ不振、メガヒット作品の不在、違法海賊版サイト問題をはじめ、昨今のマンガ業界を取り巻く状況は決して明るいとは言えない。それは“日本一売れている雑誌”の『週刊少年ジャンプ』(集英社)を擁する「少年ジャンプ」も例外ではなく、これまでも「少年ジャンプ+」や「ジャンプBOOKストア!」など、デジタル領域への積極的な展開を行うことで、刻々と変わる時代への対応を図ってきた。

 そんな少年ジャンプが、新たにマンガ投稿アプリ『ジャンプルーキー!』を5月7日にリリースした。「誰でも投稿できる」「広告収入は投稿者に100%還元」を掲げ、次世代の大ヒットマンガ家たちの登竜門を担う存在としてサービスの拡充を目指している。

 5月9日、東京・渋谷ではIT関係者を招き、まさに“少年ジャンプの未来”をテーマにしたトークセッション「ジャンプのミライ2018」を実施。少年ジャンプの各編集長らも参加して、週刊少年ジャンプの“これまで”と“これから”を熱く語り合った。

新人作家との出会いを増やす「オープン」なマンガアプリの提案

「ジャンプのミライ2018」は大きく4つのテーマに分けて、それぞれ少年ジャンプとIT開発者をゲストに招き、トークが繰り広げられた。最初のテーマは前述の『ジャンプルーキー!』について。はてなの石田樹生さん、ネットコンプレックスの今村暢子さん、少年ジャンプ+の籾山悠太さんが登壇して、アプリ開発の舞台裏や利用状況などを明らかにしていく。

はてな・石田樹生氏
ネットコンプレックス・今村暢子氏

『週刊少年ジャンプ』はこれまで新人作家との出会いを“持ち込みの電話”と“漫画賞の投稿”に頼ってきた。実際、冨樫義博先生や松井優征先生などは持ち込み、鳥山明先生や尾田栄一郎先生などは投稿によって発掘された経緯がある。しかし籾山さんは、「読み手と描き手の環境の変化によって、WEB上でマンガを発表し、それを読む人が増えたことから、新人作家との出会いの機会を増やせるのでは」と思い、2014年に「少年ジャンプルーキー!」を立ち上げた。サービスの運営を行う今村さんによれば、リリースから3年半で、月間の平均投稿作品数は377作品、また毎月平均92人の新人作家が投稿を行ったという。その結果、4名が『週刊少年ジャンプ』で作品掲載、18名がジャンプコミックスで単行本化、26名が「少年ジャンプ+」でデビューを果たした。籾山さんもこの結果には満足していると振り返った。

集英社・籾山悠太氏

 一方で、籾山さんは「(少年ジャンプルーキー!は)持ち込みや漫画賞の延長として設計したサービスのため、少年ジャンプを意識して投稿する作家が多く、裏を返せばそれ以外の投稿は少なかった」と語り、それがきっかけで「ユーザー投稿型WEBマンガアプリの決定版を目指したい」と同サイトのアプリ化を企画した。開発を担当したはてなの石田さんは、「広告、コミュニティ、ジャンルの3つをオープン化することで、他のマンガ投稿サービスとの差別化を図った」という。特に「広告収入を投稿主に100%還元」は画期的で、読者が増えれば増えるほどマンガ家の利益は増えることになる。また、少年マンガ作品の多いイメージが強い「少年ジャンプルーキー!」から脱却し、アプリでは青年向けや女性向けなどのジャンルの壁を取り除いて、多彩な作品が投稿できるようにした点も大きな試みだ。

『ジャンプルーキー!』は今後50万人以上にフォローされるような作品・作者を生み出すことを目指す。石田さんは最後に「インターネット発のジャンプを目指すのがジャンプルーキー! としてのゴール。どんどん人気作家さんが生まれる広場になればいいと思う」と語り、新アプリへの期待をのぞかせた。

「制作環境」を変えることでアウトプットを増やす

 続いてのテーマは無料マンガ制作アプリ『ジャンプPAINT』について。『ジャンプPAINT』とは、2017年6月にリリースされたマンガ制作アプリだ。開発はマンガ・イラスト制作ツール「メディバンペイント」で知られるMediBangが行っている。トークには籾山さんとMediBangの柳沢和起さんが登壇して、同アプリの企画が生まれた経緯や特徴について紹介した。

MediBang・柳沢和起氏

 まずは籾山さんから『ジャンプPAINT』が生まれた背景を説明。現在、マンガ家の制作環境はデジタルが中心だ。液晶タブレットやCLIP STUDIOを導入しているケースが多いが、作業環境を整えるにはお金がかかるなどハードルが高い。そこで「スマートフォンやタブレットがあれば誰でも無料でデジタル作画ができるツールを提供したい」と思い、『ジャンプPAINT』は開発された。マンガを描く人が少しでも増えれば、将来のジャンプマンガ家、ひいてはメガヒット作品が生まれる可能性も高まる。開発を行ったMediBangの柳沢さんも、協創に至った背景として同社が掲げる「世界中の誰もがクリエイターに」というメッセージを挙げ、「才能を育てることでアウトプットを増やしたい」と意気込みを語った。

『ジャンプPAINT』ではマンガを描くだけでなく、歴代のジャンプ作品を見本にしたマンガの練習や、ストーリーやキャラクター設計といったマンガの描き方を学ぶこともできる。また、描いた作品は前述の『ジャンプルーキー!』に投稿することも可能だ。2016年に矢吹健太郎漫画賞の奨励賞を受賞した『あなたが恋と言うのなら』は、作者のあつもりそうさんが“スマホで指だけを使って描いた”という実例もある。「マンガを描きたい」と思えば、誰でも気軽にチャレンジできる環境がすでに整えられていると言えるだろう。

「コンテスト」で新しいマンガの楽しみ方を模索する

 3つ目のテーマは、現在第2期の募集(6月15日まで)が行われている「少年ジャンプアプリ開発コンテスト」について。会場には昨年実施されたコンテスト第1期で入選を果たした『マワシヨミジャンプ』の開発者、ミライアプリの渡嘉敷守さんが登場。籾山さんと共に、コンテストに高い関心を示しているIT関係者に向けてトークが繰り広げられた。

「少年ジャンプアプリ開発コンテスト」は、少年ジャンプ自体や、そのマンガ・キャラクターに関する新しいアプリ・WEBサービスの企画を募集するコンテスト。デジタルネイティブとしてスマホやPCを利用する人が増えている中、それに対応した新しいマンガの楽しみ方を模索するプロジェクトとなっている。籾山さんによると、第1期の奨励賞企画の中には、画像解析・加工技術を使った『コスプレ☆ジャンプアプリ』や、児童向けの『ファミリージャンプ』など、多彩な切り口による応募があったという。

ミライアプリ・渡嘉敷氏

 その中で入選した『マワシヨミジャンプ』は、現実のマップ上に電子コミックを置いて共有するマッピングサービス。開発を行ったミライアプリの渡嘉敷さんは、「“ブッククロッシング(読んだ本に旅をさせようというプロジェクト)”という活動を覚えていて、うちが元々行っていた位置情報を検出するサービスに、電子コンテンツを組み合わせたら面白いのではないか」と思い、試しにコンテストにチャレンジしてみたという。『マワシヨミジャンプ』は2018年中の公開を目指しており、Android版とiOS版を開発中。会場ではオフレコで開発中のアプリ画面も公開された。

子供とマンガをつなぐアプリで次のジャンプ世代を育てたい

 ラストを締めくくるのは、おそらく今回のトークセッションで来場者が最も関心を示していたテーマ。これまで紹介されてきたデジタル領域への試みを踏まえ、少年ジャンプに関わる編集者たちが「少年ジャンプのミライ」を語り合う。第3編集部部長の瓶子吉久さん、週刊少年ジャンプ編集長の中野博之さん、少年ジャンプ+編集長の細野修平さん、そして長年少年ジャンプをはじめ数々のマンガアプリを手掛けてきたICE取締役の渡邊一弘さんが登場した。

(左)週刊少年ジャンプ編集長・中野博之氏(右)第3編集部部長・瓶子吉久氏

 司会を務める集英社デジタル事業部の漆原正貴さんから、「なぜ『少年ジャンプアプリ開発コンテスト』を行ったのか」と尋ねられた瓶子さんは、「少年ジャンプはこれまで色々な方々の力を借りてキャラクターやマンガを広めてきた歴史がある。時代の変化にあった新たなマンガの届け方を考えた時に、色々な方々と新しいものをどんどん作っていくべきだと思った」と明かす。続いて「第1回の思い出」を聞かれた細野さんは、『HUNTER×HUNTER』でおなじみのグリードアイランドをモチーフにしたゲーム化企画を挙げ、「本当は収益性を考えたらたくさんの人にプレイしてもらった方が良いはずが、(原作にある)カードの制限数を考えると一定の人数しか参加できないというコンセプトを聞いて、企画した方の作品愛を感じた」と振り返った。

 次に「どんなアプリがあると嬉しいか」と聞かれると、「少年ジャンプとしては子供向けが苦戦しているので、子供とマンガをつなぐようなアプリがあると良いなと思う」と中野さん。また、細野さんが「第1期はジャンプ黄金期に読者だった方々のノスタルジックな企画が多かったので、今の作品、これから未来の読者を作るような作品があれば」と語ると、瓶子さんは「キャラクターは世界を超えると思うので、ジャンプのキャラクターを世界に売り込めるようなアプリがあるとチャンスが広がるのでは」と打ち明けた。コンテストの企画段階ではジャンプのキャラクターを自由に使ってOKだそうで、中野さんも「本当に面白ければ我々が何とかします!」と答える一幕も見られた。また、実際にジャンプ関連アプリを制作してきた渡邊さんは、「前回のミライアプリさんのように、何かひとつの技術に特化した方の応募も大歓迎。ジャンプというと消費者の企画を考えがちだが、企業向けの企画も面白いと思う」とより具体的なポイントを挙げた。

 続いて細野さんからこれまでのジャンプの主なデジタル展開を解説。現在、「少年ジャンプ+」は月間アクティブユーザー数が200~250万で、累計で84億円を売り上げている。また、ジャンプグループに関係するアプリはおよそ15タイトルあり、出版社の中でもかなり多いそうだ。

常に新しいチャレンジをする。それが未来につながる

(左)ICE取締役・渡邊一弘氏(右)少年ジャンプ+編集長・細野修平氏

 ここからは事前に参加者から集めた質問を交えつつ、少年ジャンプのデジタル領域全般についてトークを繰り広げていく。まずは「みなさんが今の少年ジャンプに足りないと感じているものは?」と聞かれると、「初版100万部の大ヒット作品」と中野さん。さらに細野さんは「読者の立場からするとバトルマンガが読みたい。編集者の立場からすると『ONE PIECE』などの前例があるせいか、マンガ家を目指す方々はバトルマンガを作るのは難しく考えがち。そこはシンプルに自分が面白いと思うバトルマンガを作ってもらえれば」とアドバイスを送った。

 さらに「ジャンプの海外展開について」を尋ねられると、細野さんは「かつて“世界征服が目的だ”と語るジャンプ編集者がいたが、海外展開は積極的にやっていきたい。でも、中国や韓国などでは自国の作家向けのマンガサービスが大きくなっていて、簡単にはいかないと思っている」と打ち明ける。瓶子さんは「やはりキャラクターはストーリーが分からなくても受け入れてくれる可能性がある。日本のキャラクター作りはすごく長く蓄積されたノウハウがあるので、そこを上手く使って海外を狙っていけたら」と語ると、中野さんも「ジャンプ作品は海外で人気があるというイメージはあるが、実際に海外に行ってみるとそこまでじゃない。まだまだ未開拓なファンを発掘できると思う。これまでは流通で難しい面があったが、今後はデジタルを使って展開を図っていきたい」と期待をのぞかせた。

 最後に「ジャンプに限らず、マンガやマンガ誌、書店数の減少など時代が変化していく中で、どんなジャンプのミライを皆さんは描いているか」との質問に、渡邊さんは「今後デバイス自体は進化していくと思うが、いつもチャレンジ精神が溢れているところがジャンプの強み」と語ると、「今までは部数ベースで考えていたが、そことは違うヒットの形があると思う。コミックスの売れ行きとは関係なく話題になるなど、ヒットを実感できるケースが出てくるのでは」と細野さん。中野さんも「作家と向き合って打ち合わせをして、面白いマンガを作るというジャンプ編集部がやることはどんな時代も変わらない」と続けた。瓶子さんも「少年ジャンプで最初にホームページを作ったのは当時一番長寿作品だった『こちら葛飾区亀有公園前派出所』だったと思う。週刊少年ジャンプは今年50周年を迎えたが、新しいことをしなければ未来はない。常に新しいことを皆さんの力をお借りしながらやっていけたら、それが未来につながるはず」と話してトークを締めくくった。

取材・文・撮影=小松良介