売上ゼロでもボーナスが良い? 謎多き総合商社の新しいビジネススタイルを徹底解剖

ビジネス

公開日:2018/5/31

『ふしぎな総合商社』(小林敬幸/講談社)

 みなさんは「総合商社トップ5社」を挙げろと言われたらきちんと答えられるだろうか。正解は三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅の5社だ。本稿をお読みのみなさんには簡単すぎるクイズだったかもしれない。それでは、商社はいま何をやっている会社かという質問はどうだろう。「昔は貿易の仲介をやっていたが、いまは何をやっているのだろう…」といまいちピンとこない方が多いと思われる。

 本稿では、すっかり様変わりした商社の実態を『ふしぎな総合商社』(小林敬幸/講談社)に即して解き明かしていきたい。

■商社を「売上高」で評価する時代は終わった。それに代わる新しい指標とは?

 現在の商社には、売上高が“ゼロ”という営業部がたくさんある。そして、これらの多くの営業部が売上高ゼロにもかかわらず「優良」なのだ。これを聞いておったまげないでほしい。これにはきちんとしたカラクリがある。

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 いま多くの商社は、従来の売買仲介型から事業投資型へとそのビジネススタイルを劇的に変化させた。従来の売買仲介型での売上高とは、主に貿易の際に発生する仲介料をいうが、業務内容をすっかり変えてしまった商社にとってはもう売上高はほとんど意味をなさないのだ。

 しかし、それでもまだ疑問は残る。ではどのようにして利益を出しているのかということだ。ここでカギとなってくるのが「連結決算」である。連結決算とはおおまかに説明すると、関連会社の利益を出資比率に応じて親会社に取り込む決算をいう。たとえば、親会社が関連会社Xに40%出資しているときに、その会社Xの利益の40%分を親会社が手に入れることができるのである。だからこそ商社は連結決算を利用して、売買仲介型から事業投資型のビジネススタイルへと移行できたのである。

■総合商社に訪れた業態変化は、いずれ全ての企業にやってくる

 それでは、いったいなぜこのように事業投資型への業態移行が必要となったのかを考えていこうと思う。

 売買仲介は企業同士の貿易における仲立ちの仕事である。本稿を読んでいるみなさんの中にはもうお気づきの方もいるかと思うが、高度成長を経て各国の経済が成熟し始め、その成長幅が小刻みになってくると、商社の仲介機能はかえって貿易の邪魔となる。そこで多くの企業がこぞって「商社外し」を行うようになる。すると当然、売買仲介で利益を上げていた商社にとっては大きな痛手となるわけだ。この状況を放置し続けると商社はたちまち経営難に陥ることになる。この状況を回避するために、商社は新たなビジネススタイルとして事業への投資を始めたのである。

 具体的に挙げると、商社は、資源輸入の代行をする代わりに資源の安定的調達を図る関連会社への出資、あるいは工業製品輸出に介在する代わりに工業の海外進出支援としての投資をするようになったのである。

 ここで述べたビジネススタイルの転換は今後、商社だけでなく日本国内のさまざまな企業において求められることである。その意味で、本書の著者である小林氏は総合商社を“課題先進企業”と位置づけているのである。

 ここまで、商社のビジネススタイルの変容とその原因、および現在の総合商社の位置づけを解説してきたが、その一端がつかめただろうか。小林氏は、これから先いろいろな企業において、商社が遂げてきた劇的変化の波が直撃すると予測している。その際に、企業の経営者だけでなくこれからの社会を担う就活生や若い世代にも本書を通じて、「ビジネススタイルの変革」とはどういうことを意味するのかを学んでほしいと望んでいる。わたしも本書がこれからの日本の経済成長に一役買うことを願っている。

文=ムラカミ ハヤト