人の気持ちがわかるリーダーに必要なのは読書!? 新しいリーダーの指南書

ビジネス

2018/7/17

『〈東京大学の名物ゼミ〉人の気持ちがわかるリーダーになるための教室』(大岸良恵/プレジデント社)

「情のあるリーダー」と聞いて、どんな人物を思い浮かべるだろうか。文豪、夏目漱石は「精神作用には、知・情・意の3つがある」と説いている。プロジェクトをともに進める仲間や部下といった“フォロワー”がついてこないと悩むリーダーは、この「知・情・意」のバランスを見直してみるとヒントが見つかるかもしれない。

『〈東京大学の名物ゼミ〉人の気持ちがわかるリーダーになるための教室』(大岸良恵/プレジデント社)という書籍では、古典から読み解くリーダーシップに関するゼミの出発点として以下のことが語られている。

「知」は知識や知恵。「意」は強い意志と意欲、そして自律と自立。では、「情」とは何でしょうか? 「情」とはただやさしい思いやりではありません。他人の気持ちをわかろうとすることです。ひよこが寒かろうと思って、お湯を飲ませてしまうような間違った親切ではありません。寒いと思っているのは自分であって、ひよこではないのです。

 ただのやさしさではない、本物の「情」を磨くにはどうすればよいのだろうか? そのひとつの答えとして読書は欠かせないのだという。なぜなら、本の中にはあらゆるタイプの人間が息づいており、彼らが嘆き、笑い、人間というものへの理解を一層深めてくれるからだ。幼少期からさまざまな本を読み漁ってきたという著者は、「人間の弱さや不条理、意志の強さ、参考にすべき生き方を本から学んできた」と語る。

 本書は、昔から読み継がれている古典や、誰でも名前を聴いたことがあるような名著を活用し、「情のあるリーダー」になるための“ものの見方”や“考え方”を身につけていくことを目的とした本だ。

■部下の言い分がバラバラで真実が見えないとき、リーダーはどう振る舞う?

 本書では、全14回のゼミごとに、課題図書や参考図書がまとめられている。その第1回では芥川龍之介の有名な『藪の中』が扱われている。読んだことのない方のために物凄く簡単に要約すると以下のような物語だ。

「藪の中で刺殺体が見つかる。同じ現場で同じ状況に遭遇した3人の証言はすべて食い違っており、不思議なことに全員が“自分が殺した”と主張する。真相はまさに藪の中…」

 この物語を読んだ後に、ゼミでは次の3点の質問を投げかける。

(1)真実とは何でしょう。真実とは知り得るものでしょうか
(2)情のあるリーダーはこの場面でどう振る舞うでしょうか
(3)自分の思い込みは他者にどういう影響を与えるでしょうか

 さらに答えを考えるためのヒントが提示される。まず、人が話をするプロセスを分解すると、その人の「主観フィルター」を通してストーリーが記憶され(インプット)、発言(アウトプット)されるという仕組みが説かれている。主観フィルターとは、その人の価値観や行動哲学やものの考え方の傾向の違いなどによって形づくられるもの。リーダーたるもの、「なるほど、あなたの(主観フィルターを通した)話はこういうことですね。(でも、真相は自分の目で確かめなければ…)」という意識を持ちたいものだと著者は説く。

 また「情のあるリーダー」は、ただ真実を突き止めようとするのではなく、フォロワーの言葉を受け止めることを優先するのだという。そのためにも、「情のあるリーダー」を目指す人は、普段から人間というものを知るために、自分の中にある「引き出し」の数を増やす努力をすべきと著者は説く。

古典など、選び抜かれたものを読みましょう。小説だけでなく、能、歌舞伎、演劇、落語といったものの中にも複数の「真実」を扱ったものが多くあります。自分を含めて人間には、さまざまな欠点や不完全さがあると気づくことが、「情のあるリーダー」の第一歩です。

 本書は他にも、社会心理学者エーリッヒ・フロムの『愛するということ』を通じてリーダーの立場における「愛」の考え方を学んだり、宮大工の西岡常一による『木のいのち木のこころ』から「素直さ」や「褒め方」について考察してみたり、読書から広がる学びの幅は実に広いと感じさせられる。

 現代の流れをみると、人と人との心の交流は希薄になりつつあるように感じるかもしれない。しかし、そんな現代だからこそ、「情のあるリーダー」は渇望されているのではないだろうか。どれだけコンピューターをはじめ道具が便利になって、個人でできることの幅が広がったといっても、結局人を動かせるのは人、もっといえば「情」なのだ。そう考えさせられる読後であった。

文=K(稲)