『ダ・ヴィンチ』2018年9月号「今月のプラチナ本」は、米代恭『あげくの果てのカノン』

今月のプラチナ本

2018/8/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『あげくの果てのカノン』(全5巻)

●あらすじ●

高校時代に好きになった境先輩を、その後8年間も想い続けているかのん。境先輩は卒業後、地球外生命体“ゼリー”と戦う特殊部隊に入隊。きれいな妻もいて、国民的ヒーローとして注目されている先輩を、雑誌やテレビ越しに恋慕っていたかのんだが、ひょんなことから、バイト先で再会。先輩から好意を向けられて……。

よねしろ・きょう●東京都出身。2012年「アフタヌーン四季賞」佳作「いつかのあの子」でデビュー。ほかの作品に『おとこのことおんなのこ』(「ふぞろいの空の下」改題)、『僕は犬』がある。

『あげくの果てのカノン』書影

米代恭
小学館ビッグC 各552円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

生身に「好き」と、刃物で刻み込め

人は恋に落ちるとき、その相手の何を好きになるのか? 顔? 人格? 思い出? 正しさ? 強さ? 人は変化していくのに一貫して好きって、矛盾してないか? そもそも「好き」って何なのか、そんなに大事なことなのか? これらの問いをロジカルに分析すれば哲学だが、生身を刃物で切り裂くように問い続けるのが本作だ。かのんと先輩の“あげくの果て”を追ううちに、読む者もズタズタに刻まれる。あなたの「好き」と「好きな人」を根底から揺るがす、強烈な一撃!

関口靖彦 「おれは、100万回も しんだんだぜ。いまさらおっかしくて!」ねこは、だれよりも 自分が すきだったのです。(『100万回生きたねこ』より)

 

最後の衝撃をどう吸収するか

変化を前にすると、反射的に抵抗を感じてしまう。でも、なんで嫌なんだ?って考えると別に嫌じゃなかった、というケースが私は多い。だいたい、どうしてもこれじゃなきゃ!と思わせるものって人生でそうないよなぁと。先輩は“修繕”によって強制的に変化してしまう。特別のことのようだけど、実は普通だ。みんな“修繕”は受けてないけど変化しながら生きている。だから、かのんは普通じゃない……じゃなくて、“これじゃなきゃ!”を手に入れたから、必然だったのかなと思った。

鎌野静華 伊藤理佐さんの特集を担当。ご自宅に原稿を受け取りに伺ったとき、伊藤さん宅の美猫がお出迎えしてくれてメロメロに。ザリザリの舌カワユイ♡

 

私一人だけの雨傘

先輩のあらゆる断片(使用済箸袋まで!)を収集することで満ち足りたストーカー生活を送っていたかのんは、8年ぶりに現実の彼と再会する。そして気づく。「少し軽い…感じになってい」る。先輩の情報を調べ抜き、その微妙な変化にも心を動かされるかのんは、ある事情から「心変わり」を繰り返す彼の支えになってゆく。彼のことをずっと好きでいると心に誓いながら、幸福な脳内世界から踏み出したかのん。時間の感覚が伸び縮みするような、痛くて狂おしい無限の恋愛がここにある。

川戸崇央 高山一実さんの小説連載「トラペジウム」がいよいよ完結……! 「トロイカ学習帳」はグルメマンガの巨匠・土山しげるさんの追悼企画です。

 

恋とは随分と身勝手なもの

主人公のかのんは、どうしようもない女性である。宗介への「恋」、それだけが彼女の人生であり、執着であり、それを変えようとしない。相手が〈知らない人〉になることで、悪役とわかっている自分の物語から(相手任せで)降りようとすらもする。随分と彼女は、自分本位で理性が利かなくて、身勝手だ。しかし、私は圧倒的にこの主人公の感情の振れに惹かれてしまう。作中、あふれんばかりの心の躍動感を味わってほしい、これぞ恋だ。個人的には、この作品はハッピーエンドだと思う。

村井有紀子 次号から担当特集が続きますが、9/6発売号は表紙+特集で安田顕さんがご登場。ファンの皆様、ぜひご覧ください〜!!(個人的にも喜び)

 

ラン! かのん! ラン!!

先輩への恋に全てを捧げる、かのん。臭いものに蓋をしたつもりで、結局後で開けてしまうような中途半端な自分は、その鋼の邪念に憧れを抱いた。友達も、家族も、相手の妻も、ましてや国家の存亡になんぞ目も振らず、自分が溺れた恋だけを信じて、全速力で世界から遠ざかっていく姿のなんと眩しいことか。そして「あげくの果て」に迎える、最高にして最悪のハッピーエンド! 彼女が傷つき傷つけるほど、読み手に不思議なパワーが湧いてくるのだ。走れ!かのん、どこまでも!

高岡遼 弾丸で神戸へ。身の丈に全く合わない、ありがたい神戸牛ステーキを頂いた結果、3日間胃もたれしました。素寒貧にもなりましたが最高でした。

 

恋する私たちは、ちょっとおかしい?

恋愛にまつわる様々な不健全さを、かくも容赦なく描いた作品があるだろうか‼(超褒めてます)。ひとりの人を懸命に想うほど、正しさから逸脱していくかのん。自分に向けられる複数の愛情によって欠落を埋める先輩。愛と執着がこんがらがって凶行に走る初穂。困った人たちである。でも、既存の価値観や制度的な「正しさ」と、自分の感情にズレが生じることは、誰にだって起こり得るはず。その果てにどんな景色が広がるのか。タイトルの意味が明かされる壮絶なラストまで一気読み推奨!

西條弓子 見出しは2017年10月号の恋愛マンガ特集のタイトル。同特集で米代さんにインタビューをさせていただきました。WEBでも読めるので是非。

 

「好き」は史上最強の原動力!

こじらせ女子かのんの狂気的な片思いは、私たちが必死で忘れようとしてきた過去の恋愛を一瞬にして蘇らせる。そういえば、恋は美しくなんてなかった。それなのに「先輩しか好きにならない」と宣言できてしまうかのんが、たまらなく眩しくて羨ましい。そんな恋の苦みも甘みもぎゅっと詰めこんだ本作は、私たちに様々な疑問を投げかける。好きは希望か絶望か?恋は果たして永遠か?―恋愛偏差値が低すぎる私は「これは今度の女子会の議題にしよう」と密かに決意を固めるのでした。

井口和香 今まで「夏=部活やサークルの練習漬け」だったので、オトナの夏の過ごし方がわかりません。平成最後の夏、どうにかして充実させたいものです。

 

 

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