「なんであんなヤツが評価される?」 わらしべ長者的に評価を高める“ズルい力”

ビジネス

公開日:2018/8/31

『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』(ふろむだ/ダイヤモンド社)

 近年の日本企業は、従来の年功序列の給与体系から、徐々に“実力主義”へと変わりつつある。若手でも“実力”さえあれば、年次の高い社員よりも良いポジションが与えられ、それに応じて給与も上がっていく――。個人的にも、こうした流れは望ましいものだと思っているが、果たして、本当に“実力”を評価して反映しているという会社はどれだけあるのだろうか。

 例えば、自分の職場を見渡して、「なんであんなヤツが評価されてるんだ?」と疑問に思ったことはないだろうか。本書『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』(ふろむだ/ダイヤモンド社)によれば、こうした実力と評価の乖離には、“思考の錯覚”が関係しているという。著者は、この“思考の錯覚”を利用し、自分を実力以上にみせる“錯覚資産”が、成功につながると述べている。

■人を実力以上にみせる“錯覚資産”って何?

“錯覚資産”とは、「他人が自分に対して持つ、自分にとって都合のいい思考の錯覚」のことだ。著者によれば、こうした思考の錯覚は、認知心理学の分野で“ハロー効果”と呼ばれる認知バイアス(認知の偏り)から生まれるのだという。ハロー効果とは、聞きなれた表現で簡単に言えば“後光”のことである。何か一点に優れている人は、その他の何もかもが優れて見えるという錯覚だ。

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 例えば、ビジネス書を選ぶとき、多くの人はその著者の肩書を確認するだろう。有名企業出身、起業経験多数、資産○億…そういう“売り”があると、私たちは「この本は役に立ちそうだ」と思うし、書いてあることを信用しやすくなる。さらに、“本を出している”ということも、その著者に更なるハロー効果をもたらし、本業にも良い影響を与えることもある。

 あなたの会社で「なぜか評価されている人」も、上司を錯覚させるような“何か”があるはずだ。それなら、こうした“錯覚資産”はどのように作ればよいのだろうか?

■どうすれば、上司を勘違いさせる“錯覚資産”は増やせる?

「錯覚資産が成功につながる」という理屈はとてもわかりやすいが、その錯覚資産自体が成功によってももたらされるというのであれば、「ニワトリと卵」問題のようにも思えてしまう。

 だが、このジレンマは、物々交換によってより価値の高いものを手に入れる「わらしべ長者」をイメージすると解決しやすいはずだ。つまり、私たちはまず小さなアクションを起こして、それによって小さなハロー効果を手に入れる。そして今度は、そこで生まれた錯覚をもとに少し大きなアクションを起こし、少し大きなハロー効果を手に入れる…。このように、アクションとハロー効果の循環を作り出せば、やがて大きな“錯覚資産”を生み出すことができるのだ。著者の場合は自身の起業にいたるまでに、「エンジニアの勉強会に参加」→「他のエンジニアから雑誌記事の仕事をもらう」→「いろいろな雑誌から依頼がくるようになる」→「書籍の翻訳・監訳をするようになる」→「人脈が増え、起業する」という流れを経ている。それぞれのステップで「コイツはなんかすごそうだ」という“錯覚資産”を蓄積し、それが起業という成功につながったのだ。

 本書では、さらにもっと詳しく掘り下げた“錯覚資産”の増やし方も解説されているので、ぜひ参考にしてほしい。また、ハロー効果以外にも、“錯覚資産”を作るのに役立つ“思考の錯覚”の例がいくつか紹介されている。これらは、自分の中の矛盾や葛藤を無意識のうちに解消しようとする「認知的不協和の理論」や、何かを選択するときに過剰に初期設定のものを選んでしまう「デフォルト値バイアス」など、読んでいて「わかる!」とか「痛いところつかれた!」と思うような説得力のあるモデルばかり。こうした認知心理学の考え方を知ると、あなたの“世界の見え方”も“出世のスピード”もきっと変わるはずだ。

文=中川 凌