日本経済を救う新しい消費者とは? 大前研一が説く経営処方箋

ビジネス

2018/9/11

『新しい消費者』(大前研一/プレジデント社)

 政府が金融緩和の笛吹けどなかなか踊らない日本経済。社会全体が低成長だから仕方ない、と政策の効果など外部環境を言い訳にせず、いまこそ経営者自ら消費者を捉え直せ、と檄を飛ばすのが本書『新しい消費者』(大前研一/プレジデント社)だ。

■なぜ「新しい消費者」か?

 著者は日本経済低迷の原因を「低欲望社会」にあると指摘する。高齢者は戦後の経済発展の政策であった「勤労と貯蓄奨励」がDNAに刷り込まれ金を使わないし、一方の若者もお金がかかるから結婚もしない、と社会全体が低欲望のさまを示している。これを解決する政策が期待できないからには、企業は自ら「新しい消費者」を掴む以外に生き残る術はないのだという。

■どこに「新しい消費者」はいるか?

 新しい消費者を掴むには、越境Eコマースとインバウンド消費、つまり海外の消費者を捉えることが必要だと著者は説く。

 越境Eコマースとは、海外のモノを日本で買うインバウンドEコマースと、日本のモノを海外の人が自国で買うアウトバウンドEコマースに大別される。国内を含め、世界にちらばる目利きな人たちをバイヤーとして組織化すれば百貨店をも凌ぐさまざまな商品やサービスのセレクトショップをも展開できるという。

 インバウンド消費の象徴だった中国人の爆買いは中国政府が60%もの関税をかけたために沈静化し、前述のEコマースへとその場は移った。そして旅行中の消費はモノからコトへ変化中だという。著者は現在年間600万人の中国人旅行者が2000万人へとさらに増加することを予測する。コト需要を満たす膨大なビジネスチャンスが生まれるのだ。

 一方、低欲望の国内にも元気な消費者がいることを著者は指摘する。バブル期を経験した50代、60代のやんちゃなじじい、「ヤンジー」と呼ばれる人たちのことだ。車、時計、ファッションと消費への欲望が高い層だとのこと。彼等の右脳に働きかけ個人資産が市場に出てくるしかけを作ればよいのだという。また商品もラグジュアリー消費に向けたストーリーのあるハイブランドと、一方でコスパ中心のものに二極化し中間価格帯はなくなっていくのだという。

■スマートフォン経済が生み出す「新しい消費者」とは

 いまやスマートフォン経済は定着し、そして新しい形態の消費を生み出している。Eコマースもかつてはどこで買っても同じいわゆる左脳系商品からアパレルなど右脳系商品が伸びてきているし、企業と消費者がともに生み出す商品、Cookpad、@cosmeなどSNS活用による消費創造も見逃せない。シェアリングエコノミーも、空間シェア、モノシェア、移動手段シェア、お金シェア、スキルシェア、と多様化し、さらに、Eコマースでもアパレルとレンタル業を巻き込んだエアクローゼットなど注目すべきプレイヤーも現れている。こうして消費者はスマホを通して個々の価値観に率直な消費行動をとるようになった。企業は多様な価値観を捉え、コアファンやサポーターを作れば一気に自分の市場を作ることができるのだ。

■デジタル・ファーストで考えよう

 著者はデジタル・ファーストで商売を見直してみることを提唱する。本書に説明される「新しい消費者」のパターンに現在の商売をすり合わせてみてはいかがだろうか。仕掛けはSNS、Eコマース、とすっかり普及したインフラであり活用難易度はけっして高くない。また経営者だけでなく誰でも空き資産やスキルを容易に販売することが可能になった。個人も「新しい消費者」を掴むことができる時代なのだ。このような発想が広がれば、多くの人々が自ら消費者を掴み収入を得るという欲望が生まれ、社会全体として活力を取り戻すのかもしれない。

文=八田智明

大前研一(おおまえ・けんいち)
早稲田大学卒業後、東京工業大学で修士号を、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得。日立製作所、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、現在(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長、ビジネス・ブレークスルー大学学長。