「帰省したくない」あなたへ―親とうまく付き合う方法

暮らし

公開日:2018/10/2

『お母さん、年末、実家に帰らなければダメですか?−−もっとラクに! もっと自由に! ワクワク輝いて生きるために大事なこと』(心屋仁之助/廣済堂出版)

 あなたは自分の母親が好きだろうか。それとも正直、嫌いだろうか。盆に帰省した人は、母親との会話を思い返してほしい。勉強や仕事、家族のことを褒められただろうか。または、「将来はどう考えているの?」「いつ結婚するの?」「収入は?」「不安だわ…」などと心がえぐられることを言われただろうか。多くの人は、年末年始に帰省するだろう。その帰省、常識とはいえ、どうしてもしなければならないのだろうか。

『お母さん、年末、実家に帰らなければダメですか?−−もっとラクに! もっと自由に! ワクワク輝いて生きるために大事なこと』(心屋仁之助/廣済堂出版)は、主要人物2人の会話形式で、「帰省」「母親との関係」そして「自分の生き方」を見つめ直す。

 主人公は、母親の小言に嫌気が差しており帰省したくない、東京で一人暮らしの「結衣」(32歳)。結衣は、近所のカフェで“爽やか系ちょい悪オヤジ”「じいさん」と知り合う。スマホをすべり落としたことがきっかけで、結衣はじいさんに帰省の悩みを聞いてもらう流れに。

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「そのネイル、派手すぎない?」「スカート短すぎない?」といった母親からの文句を聞くじいさんは微笑みながら、「帰省しないこと」を提案する。

 これに、結衣は反論する。

「帰りたくないなら、帰らなければいい」って、分別のある大人が言うことじゃないですよ。しかも、お正月ですよ!?

日本の風物詩じゃないですか!

お正月の数日間、たかが数日間ぐらい、どんなにイヤでも我慢するべきです。

波風立てないためにも、せめて、お正月ぐらいは帰っておくべきなんです。

 結衣は、帰省は常識であること、帰省しないことはさすがに親不孝すぎることを理由に、じいさんの提案に猛反論する。

 これにじいさんは、次のように答える。

親に感謝する必要はまったくないんだよ。

お母さんは、産みたくて、産んだ。ただそれだけのことなんだよ。

文句が出るってことは、感謝してないってことなの。

そもそもその常識、結衣ちゃんはどこで仕入れたの?

無意識にルールを守っているから、しんどいなぁと思うんだよ。

 じいさんは結衣に「世間のルールを守ることと、自分の気持ちを大事にすること、どっちを取るのか」と問い掛ける。もっと、自分の気持ちに素直な行動を取ればいいのでは、と諭す。

 本書の肝は、視点の転換だ。2人の話は、やがて、結衣が母親を本当に嫌いなのかどうか、また母親は結衣を嫌いなのかどうかに移る。このとき、結衣は、自分の気持ちは母親に理解してもらいたいが、母親の気持ちは推し量ろうとしていなかったことに気づく。「愛されない私」という前提で物事を見て考えるため、しぜんと「愛されていない」という証拠集めをし、愛されていない確信を深めていることがわかる。じいさんは、「人は自分が思いたいように過去を捏造して、壮大な勘違いをしていくんだよ」と真理めいたことを聞かせ、視点の転換を勧める。

「ない」前提を「ある」にかえる。
「愛されない私」を「愛される私」にかえる。

 じいさんによると、この転換は、頭に「どうせ」を付けて、口にしてみると言いやすく、効果的だという。

「どうせ、私は愛されている」って言ってみる。

 この後、結衣は母親から「愛されている」証拠集めをしぜんと行うようになり、年末年始にこそ帰省しなかったものの、母親との関係は良好に傾いていく予感を抱かせる。

 帰省だけでなく、恋愛や友達関係など、さまざまな“固定化された価値観”ゆえ悩みを抱える人たちにとって、本書が問題解決の糸口になるかもしれない。

文=ルートつつみ