「年を取ったから」身勝手な理由で捨てられた動物を救う“みなしご救援隊”とは?

暮らし

2018/10/9

『犬と猫の向こう側』(山田あかね/扶桑社)

 今、この瞬間も飼い主の身勝手な理由により、多くの動物の命が捨てられている。それは、残酷すぎる事実だ。だが、こうした現実がある裏で、行き場のない命を救うことに命を懸けている人や動物愛護団体も日本には存在している。そのひとつが広島市に本部があり、栃木にシェルターを持つNPO法人「犬猫みなしご救援隊」だ。

「犬猫みなしご救援隊」は2013年、広島市の動物管理センターから猫を全頭引き取り続け、広島市全体の殺処分数を実質ゼロにするきっかけを作った。そんな日本有数の動物保護団体の代表である中谷百里さんの活動に密着したのが『犬と猫の向こう側』(山田あかね/扶桑社)だ。

 本書はフジテレビジョンの「ザ・ノンフィクション」で放送された内容を書籍化したものであり、近年日本で取り上げられることが多い「多頭飼育崩壊」の問題に真正面から向き合った1冊である。

■多頭飼育崩壊の裏には人間の孤独がある

 近年メディアで耳にすることが多い「多頭飼育崩壊」とは動物を無秩序に飼育した結果、異常繁殖が起き、飼育不可能な状況になってしまう現象のことだ。近ごろは、こうした問題を防ぐため、犬猫の多頭飼いの届け出を義務化しようとする動きも見られるが、法だけでこの問題を解決するには限界がある。なぜなら、多頭飼育崩壊の裏には飼育者の心の問題が隠されているからだ。

 アメリカでは、多頭崩壊を引き起こす過剰多頭飼育者を「アニマルホーダー」と呼んでおり、その根底には心の病気が関係していると考えられている。実際に、本書内に出てくる過剰多頭飼育者も身近な人を亡くし、孤立したあげく、密室で動物たちとだけ向き合う生活を送っていた。困ったとき素直に「助けてほしい」といえる相手がおらず、過剰飼育者自身も多頭飼育崩壊という問題に頭を悩ませていたのだ。

 日本は動物後進国であり、家庭で飼育されている動物は飼い主の所有物と見なされているため、第三者が手を出すことは難しい。そして、過剰多頭飼育者が「多頭飼育崩壊に繋がってしまいそう…」と感じても相談できる機関や相手がいない。本書内の過剰多頭飼育も一度は動物保護団体や行政に相談を行ったが叱られたり、「自分でなんとかしてください」と突き放されたりしてしまったため、多頭飼育崩壊を引き起こしてしまっていた。

 中谷さんは過剰多頭飼育者のそうした心の内を知っているからこそ、彼らと向き合うときは厳しくも優しい態度を貫いている。人間が抱えている問題を解決しないと犬や猫を救えないと感じているからこそ、多頭飼育崩壊で失敗し、復活した飼い主(サバイバー)を自身の保護施設に迎え入れてもいる。中谷さんはみなしご救助隊としての活動を通し、動物の命だけではなく、人間の人生や心も救っているのだ。

 多頭飼育崩壊の責任はもちろん、過剰多頭飼育者にある。しかし、本書を読むと問題を解決するには国全体で動物の命を助けようとしていく努力をしていくことも大切なのだと気づかされる。

 たとえば、動物先進国であるイギリスは創立200年を誇る動物愛護団体RSPCAをはじめ、大きな動物愛護団体が5つある。途中で飼えなくなっても無料で引き取ってもらえ、命の期限なく飼育してもらえる仕組みが整っているので、困った時でも素直に声があげられる。こうした“救いの手を求められる場所”は日本にはまだ存在していないが、必要であるといえるだろう。

「捨てられている動物を見ると拾ってしまう」「友人から引き取ってほしいと言われたから」多頭飼育はそんな優しい理由から引き起こされてしまうこともあるため、実は誰にでも起こり得る問題なのかもしれない。素直に頼れる場所が増えていくことで、過剰多頭飼育も減っていくのではないだろうか。

■少しの努力で社会は変えていくことができる

 動物たちを取り囲む日本の現状は、まだまだ厳しい。しかし、自分たちにできることを行動で示していくだけでも、社会は少しずつ変えていくことができる。

 現に、広島市の動物愛護センターの職員は猫を全頭引き取る中谷さんの行動を見て、心を動かされ、犬の殺処分も躊躇するようになっていった。当時はちょうど動物愛護法が改正されたこともあり、殺処分を減らして返還譲渡に勤めていくことが推奨されるようになっていったのだそう。こうした取り組みは全国的に広まりつつあり、現在、日本の殺処分数は減少してはいるが、「ペットが年を取ったから」「思ったよりも世話が大変だったから」という身勝手な理由で殺処分を願い出る飼い主はまだいる。こうした理由で消えていく命は、本当に殺処分されなければいけない命なのだろうか。どうして命の期限を人間が決めるのだろうか。

「犬と猫の向こう側には必ず人間がいて、その人間次第で犬と猫の命運が決まる」本書内で語られる著者のこの言葉には、私たちが噛みしめていかなければならない事実が詰まっている。社会を変えるには、ペットブームにかこつけた形だけの動物愛護ではなく、動物と一緒に笑い合っていけるような真の動物愛護とはなにかを考え、小さな努力を積み重ねていくことが大切なのだ。

文=古川諭香