なぜ、メガネスーパーでは社長が店頭に立って接客しているのか?

ビジネス

2018/10/12

『0秒経営』
(星崎尚彦/KADOKAWA)

 倒産寸前の大赤字から驚異のV字回復を果たし、話題となっているメガネスーパー。メガネ1本3万6000円と、ライバルに比べて高い価格でも、喜んでメガネを買い求めるお客様があとを絶たない。そんなメガネスーパーの店頭では、ときに奇妙な光景を見ることができる。そう、そこで電話番をしたり接客しているのが、星崎尚彦社長(※崎は正しくは「たつさき」)その人だったりするのだ。

「お電話ありがとうございます!
メガネスーパー高田馬場本店、星崎が承ります」

 メガネスーパーを窮地から救った星崎尚彦社長は、メガネスーパーの店頭で、スタッフに交じり、電話番をしたり、接客をしていたりする。なかには、「社長、これお願いしますね」と受話器を渡して出かけていくスタッフもいるというから驚きだ。

「メガネスーパーの店に行くと、社長本人が出てくるぞ」ということになれば、会社に親しみを感じてくださる方がいるかもしれない。週のほとんどは、日本全国どこかの店舗に出張り、電話番をし、新規のお客さまの顧客名簿を打ち込み、メガホン片手に呼び込みをして、自転車に乗って近隣にチラシを配って回っている。…ということらしいが、忙しくないのだろうか。

 誰にでもできる仕事をなぜ社長がやるのか、という質問に対し、「誰がやってもいい仕事なら、社長がやってもいいじゃないか」というのが、星崎社長の回答だ。もともとメガネ業界の門外漢で、スタッフが行うような眼の検査も自分にはできない。だったら雑用は自分に任せてもらい、優秀なスタッフたちには、お客さまの対応をしてもらわなければならない。これを、「きわめて合理的な判断だ」といえてしまうのが、星崎氏の強みなのだろう。

大赤字を脱却し、黒字企業へ

 しかし6年前、星崎社長が経営再建のためやってきたメガネスーパーは、今の活気など想像もつかないような雰囲気だった。メガネチェーン御三家として鳴らした時代はとうの昔に終わりを迎え、当時6年連続赤字を出して、まさに倒産寸前、絶体絶命だったのだ。

 そのころの接客スタイルは、基本的に「待ち」。スタッフは店頭で呼び込みをせず、お客さまが来店しても声をかけていなかった。放っておいてもお客さまがきてくれた時代ならそれでよかったのかもしれないが、店に閑古鳥が鳴いているのにじっと待つ、というのは不可解だ。そう考えた星崎氏は、店頭で呼び込みを始めた。すると、たったそれだけのことで、店内をのぞいてくださるお客さまが増えた。入店してくださったお客さまにアプローチすると、メガネも自然に売れた。

 スタッフたちは、「お客さまにゆっくり見てもらうため、声をかけないようにしていました」といった。星崎社長は、彼らが決してさぼっているのではないこと、「よかれと思って」やっていることを知った。

 やることをすべてやった上で赤字を脱出できないのなら、「万策尽きた」とサジを投げるほかない。だが星崎氏は、自分が現場に飛び込むことで「やるべきことをやっていない」現実を知った。つまり、メガネスーパーには打つべき手がまだまだ残されている…。ここから星崎氏と社員が一丸となって伸びしろを埋めていった経緯は本書に詳しい。

 悲惨な状況からたった3年で万年赤字を脱却し、連続黒字を叩き出すメガネスーパー。そこには、「我こそは現場なり」という気概の社長と、社長を信じて全身全霊でぶつかり稽古をし、急成長を遂げた社員たちがいたことがわかる。

●著者紹介●
1966年生まれ。早稲田大学卒業後、三井物産入社。スイスIMDビジネススクールでMBA取得。外資系企業日本法人トップを歴任後、2013年6月、メガネスーパーの再建を任され、16年に9年ぶりの黒字化を達成。17年11月、ビジョナリーホールディングス代表取締役社長就任。18年には3期連続の黒字を実現。