「生産性」を爆上げするには、まず幸せな社員になるのが先手?

ビジネス

2018/10/16

文=まつもとあつし

『パーパス・マネジメント―社員の幸せを大切にする経営』(丹羽真理/クロスメディア・パブリッシング)

「生産性」という言葉にこれまでになく注目が集まっている。もちろんこの言葉は子どもを産めるかどうか、といった意味ではなく、「働き方改革」でも重要な指標とされる労働生産性のことだ。

 この労働生産性は、「労働によって生まれた成果(付加価値)」を「労働投入量(従業員数や時間あたりの労働量)」で割ると求められる。つまり、付加価値が分子、労働投入量が分母で、その割り算の結果の数字が大きければ大きいほど「生産性が高い」ということになる。

 いま多くの「働き方改革」の現場で取り組まれているのは、残業時間を減らすことや、作業を自動化してこの分母=労働投入量を減らすことによって、生産性を上げようという動きだ。たしかに、長時間の残業は心身の健康を損ね、過労死など社会的にも問題になってはいるのだが、一方で「時短ハラスメント(ジタハラ)」という言葉が生まれたように、「残業はするな、でもいままで通り(あるいはいままで以上)の成果を出せ」という圧力を感じている読者も多いのではないだろうか? この方法では一時的には生産性が上がっても、やがて社員は疲れ果ててしまい、経営者にとっても「何のための働き方改革だったのか」ということにもなりかねない。

 この働き方改革の抱えるジレンマに、全く新しい視点を提示しているのが、『パーパス・マネジメント―社員の幸せを大切にする経営』(丹羽真理/クロスメディア・パブリッシング)だ。8月31日に発売されたこの書籍はアマゾンの「人事・労務管理」「経営学」などのカテゴリで1位になるなど注目を集めている。(筆者はこの書籍の編集協力にあたっている)

 本書では以下のようなデータを示しながら、「社員がまず幸せな状態にあることこそが生産性向上には欠かせない」と説く。

●幸福度の高い社員の生産性は31%高く、創造性は3倍高い
●幸福度の高い社員の売上は37%高い
●ポジティブなムードで仕事をしている者は、離職率が低く、会社への報復的行動をしにくく、組織市民として行動する
●最も幸福な従業員は、最も幸福でない従業員より、活力を感じる時間が65%増える
●幸福度の高い医者は、そうでない医者と比較して平均して2倍のスピードで症状を分析し正しい診断を行う

 ここでポイントなのは、「幸福優位」つまり、幸福な状態が生産性向上や創造性の発揮の前提となるということだ。私たちは例えば「売上などで良い業績を上げれば幸せになる」と考えがちだが、それは間違いだと著者の丹羽真理氏は語っている。なぜなら、売上や役職といった「地位財」は、それを得た瞬間は満足度が高まるが、すぐに「次の目標=ハードル」が意識されたり、他者との比較が生じたりして幸福度は下がってしまうからだというのだ。

 日本初のCHO(Chief Happiness Officer)の肩書きも持つ丹羽氏は、大切なのは継続的に社員が幸福を実感できる環境作りであると主張する。社員が幸せな環境にあってはじめて、持続的な生産性の向上も見込めるというわけだ。

 本書では、上記のようなデータや理論も交えながら、後半ではそのための具体的な取り組みも紹介している。「幸福優位」は、特に「眉間に皺を寄せて苦しむ」ことに美徳を感じがちな私たち日本人にとっては、発想の転換(パラダイム・シフト)を求められる考え方だが、「働き方改革」が曲がり角にさしかかっているとも指摘されるいま、一度立ち止まって学ぶべき考え方ではないだろうか。

文=まつもとあつし