「今月のプラチナ本」は、向井康介『猫は笑ってくれない』

今月のプラチナ本

2018/11/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『猫は笑ってくれない』

●あらすじ●

脚本家の早川と、映画監督の漣子。元恋人同士である二人は、一緒に育てた愛猫・ソンの寿命が近づいていることをきっかけに、5年ぶりに連絡を取り合う。早川は、漣子とその結婚相手が仕事で家を空ける間、自分がソンの看病をすることを申し出る。こうして元恋人の家に通い詰めるようになった早川だが――。愛と喪失について描かれた、著者初の長編小説。

むかい・こうすけ●脚本家。1977年、徳島県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。脚本を手掛けた映画作品に『ふがいない僕は空を見た』『もらとりあむタマ子』『陽だまりの彼女』『聖の青春』など。2017年、文芸・その他部門にて咲くやこの花賞受賞。本作が初の長編小説執筆となる。

『猫は笑ってくれない』書影

向井康介
ポプラ社 1500円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

すべてはいつも、終わってから気づく

生きているものが、死んでいく。愛し合った者が、別れていく。本書は2種類の「終わり」を描いた小説だ。どちらの「終わり」も、事故のように突然訪れることがある。だがたいていの場合は、ゆっくりと、じわじわと、終わっていく。終わりの瞬間が近づいているのはわかる、だがその瞬間がいつ来るのか、通り過ぎてからしかわからない。本書の言葉を借りれば、「すべてはいつも、終わってから気づく」のだ。それでも人生は続く。「ずっと繰り返してゆくしかないの」。それでも前へ。

関口靖彦 本誌編集長。主人公ではないが、摩理の終わり方が実に見事。そして本書は「事実を物語にすること」の物語でもある。この本、まだまだ語りたい!

 

ちゃんと別れるって難しい

私は女なので漣子さんに感情移入しながら読んだ。恋人としての早川さんは……過去も現在も、しょうもない男だな~…としか。だから彼女には幸せになってほしいし、ちょっと頼りないけど宮田さんがいてよかったし、早川のような男とは速やかに別れて正解で、元恋人でよかった(笑)。ただ再会の後に、早川さんが自分にとっての漣子さんとは、漣子さんにとっての自分とは、と見つめなおす姿は“ちゃんと別れる”って難しいけど逃げないでやったほうがいいんだなぁと思わせてくれる。

鎌野静華 先月のお菓子特集でご紹介させていただいたマンガ『わさんぼん』を読んでから、食べても食べても和菓子が食べたくなる。和菓子うまい。

 

三人と一匹が織りなす喪失の物語

ずっと退屈しない関係なんて、ないのかもしれない。それでも自分を偽って大切なものを一度失ってしまえば、それを取り戻すことがどれだけ難しいか、この小説は痛感させてくれる。「猫は二週間で飼い主の顔を忘れる」と「俺」は言うが、人間はそうではない。だからかつて情愛を交わした「俺」と漣子は、猫のソンを一緒に看取る。一方で、漣子とその夫の宮田は「今」を共有している。「俺」にとっての喪失は、主人公・宮田の始まりであり、終わってしまった恋愛は映画や小説になる。

川戸崇央 他人同士が「今」をどう共有しているかについて、早瀬耕さんの理系恋愛小説『プラネタリウムの外側』で描かれていて、本作とのリンクが面白かった。

 

三幕という考え方がまた面白くて

言葉にならない言葉を言語化してくれたり、ドキリとさせる名台詞が異常に効いてくる(ように感じる)脚本家の方の書かれる長編小説が、私はとても好きだ。今作も刺さりまくり&気づかせてくれる、セリフ満載で、全く読み飛ばせなかった。構成を「起承転結」でなく「三幕で考える」。人は、「生まれて、生きて、死ぬ」。……なるほど、三幕に全てあてはまってしまう。「俺はまた人を好きになれるだろうか」。思い出を今後どうするかは自分次第と気づく。でも好きになれたらいいな、と思う。

村井有紀子 特集「星野源と、思考。」担当。星野さんから久々に「いのちの車窓から」の原稿(まさかの倍の文字数を依頼した!笑)、頂戴して嬉しかったです~。

 

東京という街のぬくもり

静かに衰えていく猫を囲む、3人の男女の奇妙な三角関係。それと同じくらいこの作品の中で丁寧に描かれるのが、東京という街がもつ独特な“ぬくもり”だと感じた。冷たいコンクリート群の狭間に灯る小さな明かりのような場所や、人々。そんな、ささやかなぬくもりが喪失に向き合おうとする彼らには優しい。失ったものは、二度と取り戻せないかもしれないけれど、もう一度、何かを見つけることは出来るかもしれない。決して甘くはないけれど、突き放しもしない、優しさがある。

高岡遼 「AD-LIVE」特集を担当。声優さんや舞台に触れたことのない方にこそ、是非楽しんで頂きたい作品です。(なぜならその両方の魅力が解るから!)

 

「せめて人を好きになろうとすべきよ」

これはつらい…。何がつらいって、主役二人が既に別れている地点から回想が始まる構造ですよ。そこから恋愛初期の多幸感あふれる瞬間と、それが次第に冷え固まってゆく過程をなぞるという…。でも、「どのみち終わってしまうんだって考えると、はじめから諦めて」しまうようになった男に女は言うのです。「自分を好きになることができないわたしたちなのだから(中略)せめて人を好きになろうとすべきよ」。この言葉に隠された優しさは読み終えて気づきます。つらくても読了!!

西條弓子 読んでいる間ずっと「こんなに悲しいのなら苦しいのなら…………愛などいらぬ!!」という『北斗の拳』の名シーンが再生されてなりませんでした。

 

怖がらずに前を見よ

小さな頃から“おしまい”を付けるのが苦手で今まで生きてきた。本書の主人公、早川もそんな男だ。脚本家の仕事から逃げ出したにもかかわらず、足を洗うことができないし、女性との別れもグダグダ。自分とどこか似ている男の情けなさを、登場人物に容赦なく指摘されて恥ずかしさ全開でページをめくる。正直な話、早川が本当に成長できたのかは疑問なのだが、それでも最後、歩いていくからと告げた彼の姿には〝おしまい〟の先にしかない〝はじまり〟があった。見習わねば、わたしも。

有田奈央 今月のノベルダ・ヴィンチは壁井ユカコさんインタビュー! 個人的に超推し作品。マンガ『ハイキュー!!』を好きな方、一読の価値ありですよ。

 

ちょっぴり不器用な大人たちの物語

主人公の早川は「物事の流れって大体三つに区切ることができる」と語る。「生まれて、生きて、死ぬ」「出会って、愛し合って、別れる」のように。ただそれだけのはずなのに、どうしてこんなに難しいんだろう。この物語は、そんな区切りの隙間にこぼれ落ちてしまった感情を丁寧に拾い上げてくれる。名前のない関係性に悩まされることもあるけれど、救われることがあるのもまた事実。この物語のもつあたたかさに甘えたくなる日がきたら、不器用な大人へ仲間入りした証拠なのかも。

井口和香 約4年使い続けたスマホをやっと機種変更。喜びも束の間、スッピンに反応しない顔認証機能に現実を突きつけられ撃沈。素直でよろしい……。

 

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