「今月のプラチナ本」は、相澤いくえ『モディリアーニにお願い』(1~3巻)

今月のプラチナ本

公開日:2018/12/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『モディリアーニにお願い』(1~3巻)

●あらすじ●

東北の山中の小さな美術大学。壁画の千葉、日本画の本吉、洋画の藤本は、学年にたった3人だけの男子生徒。彼らは喜びや焦り、困難を分かち合いながら、毎日真剣に創作と向き合っていく。自らの可能性と美術の力を信じて日々戦い続ける、男子美大生3人組の青春物語。

あいざわ・いくえ●1993年生まれ。2014年『モディリアーニにお願い』でデビュー。現在、同作を『ビッグコミック増刊号』(小学館)にて連載中。

『モディリアーニにお願い』書影

相澤いくえ
小学館ビッグC 552~591円(税別)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

この美しい世界で、心臓は動いている

読んでいると、涙がぼろぼろこぼれる。主人公である美大生3人は、自分なりの視線で世界の美しさを見出し、掴みとり、その手で美術というかたちに結晶させる。必ずしも上手くはいかない、自信が持てない、不安だ。それでも「こうやって絵を描いてる瞬間だけ、きちんと心臓が動いてるのが分かる気がする」。この美しい世界で、自分は生きていて、その美を伝えたい。強烈な生命力と意志がこのマンガには溢れていて、ゾンビのように日々を繰り返すだけの自分を、生き返らせてくれる。

関口靖彦 本誌編集長。作品に取り掛かる前に、彼らの脳内に浮かぶビジョンも本書で描かれる。その絵の美しいこと! モノクロの紙面が、温かく輝いて見える。

 

彼らの友情がまぶしい!

大学含め“学校”は勉強するところであり成長するところ、というエッセンスが満載のまぶしい青春物語だった。なにかに真剣に取り組むと楽しいだけじゃなくて、苦しくて大変なこともある。それは相手が美術じゃなくても同じだけど、学生のうちにそれに気づいて一生懸命取り組んだ、という過去が力になるんだろうなと思う。そしてその苦しみを分かち合う仲間がいる。友達でありライバルである、なんて社会人になったらなかなか出会えないですよね。充実の学生生活でなにより。

鎌野静華 親知らず抜歯初体験。思っていたより腫れるし長らく痛みが治まらず。加齢による治癒力低下……? 他も抜こうと思っていたが断念(怖くて)。

 

アーティストへの尽きない興味

読み進めるほどに印象の変わる、才能の塊のようなマンガ。天真爛漫なガラス・アーティストの千葉はどこまでも真っ直ぐで、自らの天分を信じて疑わない本吉はある記憶と戦っている。繊細でザ美大生といった印象の藤本は、見えなくて良いことまで見えてしまう。この3人の配置が絶妙で、彼らがぶつかり合うたびに人間性があらわになることで、何度も作品を読み返したくなる。作者の哲学を感じさせるセリフの数々に加え、手の込んだ作画に脱帽。本棚にとっておきたくなるマンガです。

川戸崇央 乃木坂46・高山一実さんによる本誌連載小説『トラペジウム』が刊行。湊かなえさん、中村文則さんらにご寄稿いただき、156Pより特別企画掲載!

 

五十嵐先生に「なるほど」

担当作家や身近な人もしかり、ゼロからイチを作る人のそばに居て思うことは、私は彼らをちゃんとわかっているようで、どこか芯から理解していないような気もしていて、そのうえで激励の声をかけているのではないか?という悩ましさだ。「そこでお前が自分を否定したら、お前の絵をいいと思う俺まで―」と語る五十嵐先生の言葉に、腑に落ちた。そうか、他者の才能に惹かれた以上、「あなたの作品はいいものです」と自信を持って言っていけたら。熱を帯びたパワーあるマンガ。

村井有紀子 『騙し絵の牙』本屋大賞ノミネートに始まり、中村倫也さん連載、星野源さん特集など才ある作家を担当した1年に。来年はより良い年になる(言霊)。

 

“普通”な人にこそ

普通の大学を出て会社員になった自分は“美大生”に謎のコンプレックスを持っている。様々な創作で知る天才/鬼才(少なくとも自分にはそう見える)たちの存在に遠い憧れを感じていたのだけど、本作はそんな彼らをぐっと引き寄せてくれた。“絵が好き”という思いを支えに、存在も不確かな自分の才能に向き合い続ける学生たち。でも、それは決して選ばれし者の物語ではなくて、自分の人生を発見する、という誰もが抱える不安と希望にゆれる姿だった。励まされている気がした。

高岡遼 『ボヘミアン・ラプソディ』も超良かったけど、ここ最近で一番爪痕を残されたのは『アンダー・ザ・シルバーレイク』。久々にパンフ買いに走りました。

 

ものつくる人の青春は修羅…

「人が100頑張ったら101頑張ったよ/だってそうでもしないとさ/才能ある人に勝てないんだもん。永遠に」と、女子が涙ながらに語るシーンが胸を打つ。うーむ青春。101頑張れる人はきっと、そこで戦っていけるだけの才能はあるよ。とはいえ、頑張っただけ前進できる世界ではないし、線を重ねるほど〈良い絵〉から遠ざかることもある。それでも本作品は全力をもって教えてくれる。101本目の線を引こうとする人だけに見える景色があって、それはとても美しいということを。

西條弓子 担当書の宣伝をしたいものの圧倒的字数不足…っ!! とりあえず仔細はP82とP155にて…!! 良い本…!! よろしくお願いします…!!

 

好きなことならバカでいい

ページをめくる度、胸が痛くなって、優しい気持ちになれる。そんな本だ。これは。ただひたすらに自分の夢と美術の力を信じて、迷宮入りしながらも前に進む登場人物たちが、なんと愚かしく、なんと眩しいことだろう。導入部分で幾度も繰り返される「バカでも入れる美大」というフレーズはきっと、字面通りではなく、美術バカになれる人にこそ入ってほしいという思いが込められているのではないだろうか。大人になる前に出会いたかった本。この本を読む高校生〜大学生がうらやましい。

有田奈央 今年も残りあとわずか! 年末年始のお供選びは今月のノベルダ・ヴィンチにお任せを。2018年国内&海外の傑作ミステリーをご紹介しています。

 

撃ち抜かれる覚悟はいいか

「世界中のあなたを、絵で撃ち抜きたいんだ」という覚悟に辿り着くまでの美大生の葛藤はもちろんだが、このセリフから透けて見える作者の気概にも胸を打たれた。ここに描かれている全身がちぎれるほどの悔しさも、涙があふれるほどの喜びも、きっと全部本物だ。だからこそこんなにもまっすぐ鋭く胸に刺さって抜けないのだ。いつまでもこの作品に心揺さぶられる人間でありたいと強く思った。心の奥にしまい込んでいた情熱に火を灯してくれること間違いなしの一作です!

井口和香 年末は部屋をピカピカに片づけます!! と、ここで宣言することによって自分を追い込む作戦です。みなさまも素敵な年末年始をお過ごしください。

 

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