「最期の時」どうやって迎えますか…? 還暦子なし夫婦による多頭飼いの心温まる猫エッセイ

暮らし

更新日:2019/1/3

『あと何回ペットロスになればいいですか?』(松苗あけみ/ぶんか社)

 動物と暮らしていると、彼らの歳をとるスピードに驚かされる。人間の何倍もの速さで大人になり、あっという間に年老いてしまう。長年動物と暮らしているとその事実が切ないほど身に染みる。彼らと過ごす一日一日を大切にしようと思い、できる限り実践していても、恐らく一生、「お別れ」に慣れることなどないのだと痛感する。

 動物との最期の時は、一体どのような心持ちで迎えるのがよいのだろうか。

『あと何回ペットロスになればいいですか?』(ぶんか社)は、長年、猫の多頭飼いをつづけてきたという漫画家・松苗あけみによるコミックエッセイだ。

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 松苗先生は、子供がいない代わりにたくさんの猫たちの「お母さん」になりたいという願望があった。生まれ育った実家は大家族だったため、通常は10匹前後、多い時は15匹の猫と暮らしていても、自分のことはほとんどかまわなくなるものの、それほど大変でもないと語る。

 本書では、結婚を機に、猫のために家を買い、還暦に至る現在までの30年余りが、様々な個性を持つ猫たちを中心に、実に愛情深い視点で綴られている。

 夫婦で猫と暮らし続け、病気や家出や妊娠や出産、介護や闘病生活まで関わってきたという松苗先生。本書にも10匹以上の猫が登場するのだが、「同じ猫なんて1匹もいない」という言葉通り、見た目はもちろんキャラクターまで、とても細かく描き分けていることに驚いた。

 例えば、松苗家の女王様で、いつもソファでゆったりとくつろぐ長毛猫のパフェママ。彼女は年下夫に溺愛され、生涯で10匹の子供を産み、息子と娘と孫の上に君臨する様子が気品高く描かれている。

 また、生後10日で拾われた雑種猫のミユ太。彼は松苗家最長老の猫で、21歳で虹の橋を渡るまで、波瀾万丈な人生を歩んできた。長い間イジメられっコで押し入れに引きこもっていたものの、決して自分からは反撃することがなかった彼の優しさが、パフェファミリーの“のんびりお嬢様”たちと波長が合い、お爺ちゃんになってから仲良く過ごしている様子に心が和んだ。

 他にも、オスなのに子育てが大好きなイクメン猫のサスケや麿。おっとりしていて天然・ファニーフェイスの美が目を惹く、兄妹みんなに優しいスフレちゃん。

 マンガから、それぞれの個性を宝物のように尊重されながら、穏やかに暮らしている様子が伝わってきた。

 それゆえ、愛する猫との「お別れの日」も、より一層悲しみが募る。

 だが、松苗先生は、玄関で寝るようになるとそろそろ“その時”が近いのを把握し、「それは仕方のないこと それが生き物と共に暮らすということ――」と、涙を流しながらも猫に最大限の感謝をして、最期の時を隣で見送っていたのが印象的だった。

 特に「…ありがとう 今日一日の悲しみよりも ずっと長い間にたくさんの幸せを与えてくれて」という一文を読んだ時は、頷きながらも涙があふれてきた。

 猫は人の子供ならばいずれ独立するが猫にはそれがないので、お世話は最後のその日まで、一日も休めない。でもそれが「全然苦にならない」と語る松苗先生。

 現在10歳のサブレくんを最後にもう猫は飼わないと決めているそうだが、猫に対する優しいまなざしは、ペットを愛する多くの人を和ませ、共感を呼ぶものであると切に感じた。ペットとお別れするのは、やはりとても寂しいが、最後のその日まで、愛と感謝を忘れずに過ごそうと誓わずにはいられない一冊だ。

文=さゆ