働かなくても毎月お金がもらえるとしたら…あなたはどうする?

ビジネス

2018/12/28

『お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか?』(エノ・シュミット、山森亮、堅田香織里、山口純/光文社)

 働く理由はいろいろある。やりがいのためという人もいれば、自己実現のためという場合もあるだろう。しかし多くの人の答えは「お金のため」ではないだろうか。どうあっても、お金がなければ生活はできない。だからお金を稼ぐために働くのが道理である。しかし、もしも働かなくても必要最低限のお金が保障されていたらどうだろう。何もしなくても毎月10万円ないし20万円の収入が保障されているとしたら? そんな問いを投げかけてくるのが『お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか?』(エノ・シュミット、山森亮、堅田香織里、山口純/光文社)だ。

 生活に最低限必要な費用を給付することをベーシックインカムという。これは基本的な収入という意味で、本書では特に無条件に与えられる生活費のことを指す。一見夢のような話だが、実現に至るにはさまざまなハードルもある。まずベーシックインカムが実現すると怠け者が増えるという意見が強い。また日本では「働かざる者食うべからず」という意識もあるため、抵抗感が強まっている面もあるだろう。しかし怠け者が増えるのでは、という発想は「ベーシックインカムが導入されたら他人はどうなるか」という設問から出てくるものだ。本書で問われている内容はあくまでベーシックインカムが導入されたら「あなたは」どうするか、というものである。

 また働かざる者食うべからずという発想の根本には「苦労して働いている誰かがいるのに、苦労せずに生活するのは許されない、不公平だ」という思考がある。だがベーシックインカムとは全国民に平等に与えられる収入なのだ。つまり不公平というものはない。またベーシックインカムは、その恩恵を受けるにあたって条件がないのと同様に義務もないのだ。つまり受け取ったお金を何に使わなければいけない、という制限はなく、全額自分の自由に使うことができる。本書ではこの考え方は「非常によい」と述べている。

帝国とか王様とか政府の一部の人のためのものではなく、普通の素人の市民たち、一般の市民たちに信頼を置いて接している社会の仕組みだと思います。

 もしもベーシックインカムという仕組みが導入されたとき、はたしてどんな選択肢があるだろう。好きでやっている仕事なら続ければいいし、やりたくない仕事なら辞めることもできる。経済的な問題の多くは解決するだろう。ベーシックインカムで支給される額は議論の余地があるが、仮に20万円とする。毎月無条件に20万円が支給されると仮定した場合、まず無理に働く必要はなくなるだろう。

 だが本書で紹介されたヨーロッパのアンケートによると、毎月20万円がもらえるとしても大半(約9割)の人は仕事を続ける、と答えたそうだ。だが「では他の人はベーシックインカムが導入されるとどうすると思うか」と訊くと、これまた約9割の人が「他の人は仕事をやめると思う」と答えたのである。おもしろいことに、自分を当事者として考えるか否かで答えが180度変わってしまうのだ。得てして、人間は自分の問題を考えるよりも他人の問題を論じることの方が得意な傾向にある。故にベーシックインカムを考えるときも知らず知らずのうちに「自分ではない誰か」を主体にして考えがちだ。しかしもしこの制度が実現するとしたら、あなた自身も当事者になるのである。ベーシックインカムの実現後を考えるときは、そのことを前提として覚えておきたい。

 ベーシックインカムが導入されたら何をしたいかを考えることは、イコールして自分は何のために生きたいか、を考えることでもある。財源の問題など、実現性はひとまず横に置いておくにしても、無条件かつ平等なベーシックインカムについて考えることは決して無意味ではないのだ。

文=柚兎