『JIN-仁-』の村上もとかによる新・幕末医療ドラマが開幕! メスと刀を振るう侠医の物語

マンガ

公開日:2019/1/24

『侠医冬馬(1)』(村上もとか:著、かわのいちろう:共同作画/集英社)

 幕末へタイムスリップした現代の医師の活躍を描き、ドラマも大ヒットした『JIN-仁-』。その作者・村上もとかが新たに描く、幕末を舞台にした歴史医療ロマンが『侠医冬馬』(村上もとか:著、かわのいちろう:共同作画/集英社)だ。時はペリー来航の3年後、医術を学ぶ主人公・松崎冬馬が、福澤諭吉など後世の偉人たちと共に新たな時代を切り開いていく物語だ。

 構想はなんと5年。登場キャラクターの子孫にも話を聞き『侠医冬馬』の連載はスタートした。順天堂大学・医史学研究室の酒井シヅ氏が監修。また時代劇漫画家のかわのいちろう氏が共同作画としてクレジットされている。

1.「意識が高い」刀をさした医者の卵が幕末をゆく!

 松崎冬馬は、大坂で当時最先端の医術を学ぶ18歳(満16歳)の青年だ。現代で言えば大学・医学部の学生である。武家ではあるが、代々松前藩の藩医という家に生まれ、類まれな探究心をもち優秀なうえ、「大天狗」と呼ばれるほどの体躯と剣の腕も持ち合わせている。メスと刀を携えた医者の卵である冬馬が、不安定だが進歩的な幕末という時代に学び、人を救い、戦うストーリーだ。本作のポイントは2つある。

advertisement

1-1.幕末の志士、偉人が登場
 幕末の志士、明治維新後に名をはせる偉人たちが数多く登場する。冬馬が師事する医者として、世界初の全身麻酔を用いた手術を成功させた華岡青洲の養子である華岡南洋。天然痘治療に貢献した医師であり蘭学者の緒方洪庵。その緒方洪庵が開いた適塾には福澤諭吉がおり、冬馬と共に学ぶことになる。他にも「維新の十傑」長州の大村益次郎も登場。西郷隆盛の親友とも言われる橋本左内の名前も語られる。冬馬は彼らとまみえながら新しい時代をつくっていくのだろう。

1-2.幕末の医療の歴史がわかる
 本作ではリアルな江戸時代の医療を垣間見ることができる。1巻は、当時最先端の医学が学べる漢方系の医学塾「合水堂」、そして蘭学塾「適塾」(大阪大学の前身)が舞台。全身麻酔を使った外科手術や腑分けと呼ばれる解剖の模様が描かれる。また緒方洪庵が天然痘の予防接種(種痘)を普及させることに尽力する描写があり、物語では冬馬が当時アイヌの間で天然痘が増加していた蝦夷地(北海道)へ向かうことになる。これらは実際の史実を元にしており、ペリーの函館来航などで蝦夷を開拓しようとしていた幕府が、蘭学の技術である種痘に頼ることになったという記述がある。1858年に洪庵の天然痘予防の活動を幕府が認め、牛痘種痘を免許制としたことは事実である。

2.燃えよ剣とメス! 「侠」医が必要とされる時代

『JIN-仁-』の「仁」の意味は自他を隔てずに親しみ、いつくしみ、なさけぶかくある、思いやること。仁はまさに分け隔てなく命を救う医者として描かれた。

『侠医冬馬』の「侠」とは、信義にあつく、強きをくじき弱きを助けるという意味。冬馬は患者に尽くす男気のある「侠医」を目指す。物語が始まる1856年と言えば幕末の始まりの時期だ。先行きが不安なこの時代には、医術の才能も情もあり、さらに強さも併せ持った冬馬のような医者はうってつけだろう。

 1巻で大坂のエピソードが終わり、蝦夷地(北海道)へ向かうことになる冬馬。まさに剣とメスを振るうストーリーになっていく。また幕末から明治にかけて活躍する偉人たちもまだまだ出てくるだろう。これからの展開にも期待したい。

文=古林恭