3年で戦力外、元Jリーガー経営者がマザーズ上場! 成功の鍵は「撤退力」にあった?

ビジネス

2019/2/19

『戦力外Jリーガー 経営で勝ちにいく』(嵜本晋輔/KADOKAWA)

 カズこと三浦知良が、51歳になっても現役を続けている今の時代。日本のサッカー界では40代の現役のプレイヤーも増え、ほぼ試合に出られなくても“諦めずにプレーを続けること”が称賛されている。だが、「セカンドキャリアでも大きな仕事を成し遂げたいなら、早く現役を退く選択もアリなのではないか」とも思ってしまう。

 そんな日本には、22歳で現役を引退してビジネス界に転じ、起業後わずか7年でマザーズ上場を果たした元Jリーガーがいる。元ガンバ大阪の選手で、現在は株式会社SOUの代表を務める嵜本晋輔氏だ。

 嵜本氏の初の著書『戦力外Jリーガー 経営で勝ちにいく』(KADOKAWA)には、「新たな未来を切り拓く『前向きな撤退』の力」という副題が付いている。彼の現役引退は、まさに前向きな撤退だった。

 プロ入りから現役引退、そしてビジネスの世界での試行錯誤と成功の道のりは、同書に詳しく記されている。だが嵜本氏も簡単にサッカー選手の仕事に見切りをつけられたわけではなかった。

 将来を嘱望されてJリーガーになったものの、プロではプレーが通用しない。3年目までの公式戦の出場は3試合のみで、あっさり戦力外に。だが、自分の実力不足をすぐには認められず、社会人リーグのJFLに移り、昼間は働きながらプレー。そこでもプレーが通用しているかは怪しい状態で、日中の仕事にも楽しみを見いだせない。そして引退し、実家の家業を手伝うことに……。プロ入りからこの時点までの彼の人生は、客観的に見れば下り坂だった。

 だが嵜本氏は、父親が行っていた家電製品のリユースの仕事を手伝いはじめて、変わった。お客さんから買い取った中古家電を丁寧に手入れして、高い値段で売る。それが実際に売れる。実店舗ではなくネットオークションで売ってみたら、もっと高く売れる。そしてブランド品の売買をはじめ、大幅に利益が伸びていく……。そんな成功体験を重ねながら、嵜本氏は仕事にさらに楽しみを見いだしていった。

 幼少期からサッカーを中心に生きてきた嵜本氏だったが、リユースの仕事は「今この瞬間まで一度も辞めたいと思ったことのない」という、サッカー以上の天職だったのだ。そして好きな仕事だからこそ、努力は惜しまず行えるし、事業もどんどん大きくなっていく。

『戦力外Jリーガー 経営で勝ちにいく』を読むと、嵜本氏には既成概念に囚われない柔軟な発想があり、失敗を恐れず挑戦する勇気があることが分かる。自分の人生から成功に必要なエッセンスを抜き出し、それを言葉として表現する力も豊かだ。そして客観的に状況を分析する力と、それをもとに撤退を決める決断力がある。

 サッカーの世界でプロにまで上り詰めた人が、ビジネスの世界でそのような才覚を持っていたことは、本人も周囲の人もまったく想像していなかっただろう。その才能が花開いたのは、彼がサッカーの世界からの撤退をいち早く行えたからこそ、だ。

 強い熱意をもって、長期間にわたって真剣に向き合ってきたものこそ、諦めたり手放したりするのは難しい。それは仕事でも趣味でも、付き合ってきた相手でも同じだろう。だが“前向きな撤退”ができれば、人生にはまた新たな可能性が拓けてくる。Jリーガーとして戦力外になり、経営者として成功した嵜本氏の人生は、そのような教訓を我々に伝え、撤退と再挑戦の勇気も与えてくれる。

文=古澤誠一郎