すべての中流家庭は貧困化する!?“超富裕層”と“新下流層”しかいなくなる世界でどう生き抜くべきか

社会

公開日:2019/2/21

『格差と階級の未来(講談社+α新書)』(鈴木貴博/講談社)

「すべての中流家庭は貧困化する」

 そんなショッキングな一文から始まるのは、『格差と階級の未来(講談社+α新書)』(鈴木貴博/講談社)だ。著者は経済評論家の鈴木貴博さん。「AI時代の到来によって私たちの仕事が次々に消滅し、大失業時代が到来する」という危機的未来を様々なメディアで訴え続ける。本書では「そんな未来が訪れたとき、私たちの命を支えるお金はどうなっているのか?」をテーマに掲げ、鈴木さんの考えるショッキングな「搾取の世界」を読者に解説する。

■先進国から中流層がいなくなる「給与水準のグローバル化」

 世界で採用される「資本主義」は、21世紀に入って暴走傾向にある。世界中の富の半分は今、上位1%の超富裕層である「資本家」が握っている。一方で、日本であれば年収500万~600万円をイメージする「中流層」は、先進国を中心に数を減らし続けている。さらに最近になって年収180万円程度の「新下流層」が誕生し、「超富裕層と新下流層しかいなくなる」裕福と貧困の“二極化”が進むという。なぜこんなことが起きてしまうのか。理由はいくつかある。

 まず「投資のグローバル化」だ。私たちが日常的に使うスマホ・衣服・電化製品などは、中国やベトナムをはじめとする海外で製造されている。たとえばある資本家が日本の大企業に100億円の投資をした。投資を受けた大企業は製造元の海外で設備投資や雇用などを行う。すると潤うのは日本ではなく海外であり、投資家のお金は世界中にばらまかれる。

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 また「給与水準のグローバル化」も挙げられる。自動車や家電をはじめとする製造業は、生き残りをかけて世界中の企業とコスト競争を行う。そのため工場の機械化や海外進出が進み、従業員の給与カットも実施。国内のライバル企業ではなく海外のライバル企業とコスト競争を行った結果、日本の中流層の賃金が中国やベトナムをはじめとする新興国の賃金に引っ張られているのだ。

 本書には2012年に経済産業省が発表したデータが紹介されている。2010年の日本には、年収390万円以上の中流世帯が約4000万世帯あった。一方、ロシアやインドなどの新興27か国の中流世帯は2000年頃の2400万世帯から激増を続け、2012年に約7100万世帯、2020年には約2億世帯に達する。グローバル化によって私たちの富はどんどん新興国に流れているのだ。

■資本家が「機械から搾取」する未来

 新興国で中流層が増え続ける一方、先進国の中流層は減り続けている。その理由は「労働者からの搾取」にある。秒単位で管理することで従業員の高い生産性を実現したアマゾン、中国の工場で非常に低い製造コストでiPhoneを製造するアップルなど、グローバル経済で成功する企業の大多数は人件費を抑えることで成功してきた。

 そしてこれからの時代に起こりうるのが、第3次産業の機械化による「機械からの搾取」だ。かつて製造業では、労働者を奴隷のように働かせることで搾取してきた。しかし産業革命によって、無休で人間より効率的に生産する機械が登場。人件費のかかる人間をリストラし、機械に働かせることでより効率的に利益を搾取する「資本集約型の産業」へと変貌した。

 問題は、これまで労働者の機械化が起きにくかった第3次産業でも上記が起こりうること。人間の手で行われるバックオフィス業務や接客業、医療や金融など専門性の高い業務なども、AIの登場によって機械化が進む。これから20年の間に、フルタイムで働く人の数が激減する大失業時代が到来。一方で資本家は、機械化した第3次産業から今まで以上に搾取を続ける。これが鈴木さんの予想する「超富裕層と新下流層しかいなくなる世界」だ。本書では「富の食物連鎖」とも表現している。厳しい未来に言葉が出ない。

 そんな世界を、私たちはどう生きればいいのか。答えは意外に簡単だ。「搾取される側」から「搾取する側」にまわることだ。

■「搾取される側」から「搾取する側」にまわる方法

 サラリーマンには2つの稼ぎ方がある。人的資本と金融資本だ。人的資本とは、労働者として働いて賃金を得ること。金融資本とは、お金に働いてもらって収入を得ること。

 これからの時代は仕事がAIに奪われることで人的資本が大きく下がる。今までのように働くだけでは生活するだけの賃金が得られない。そこで今すぐ始めたいのが、「労働者であると同時に資本家になる」ことだ。

 どの時代にも必ず世界の覇者が存在する。現代ならばアメリカだ。そしてアメリカの株式市場は世界経済に連動している。アマゾンやアップルをはじめとする大企業はみんなグローバルに拡大を続ける。

これから先の世界経済は、新興国や発展途上国の新下流層の拡大によって成長を続け、こういったアメリカの大企業たちが成長機会を取り込んで成功していくだろうというのが私の見立てです。その考え方からすれば、長期安定的に自己資金を運用する対象には、アメリカの株式市場のインデックスを選ぶことが正解だと思います。

 アメリカの株式市場の代表的なインデックス「S&P500」の長期的な利回りは、1973年から2018年まで、年平均で7.1%。「9.11事件」や「リーマンショック」を経てこの数字はすさまじい。インデックスは“不況でも手放さなければ”資産運用として優良商品だ。この利率で月に4万3000円、毎年51万6000円ずつ26年間投資した場合、1342万円積み立てた資産が5000万円を超える計算になる。35歳から始めれば、65歳には5000万円を手に入れられるのだ。老後不安なんて軽く吹き飛ぶ。気になる方は詳しい投資方法を本書で確認してほしい。

 これからますます拡大する格差。勤労統計調査の不正の発覚によって、日本の実質賃金の伸びはマイナスだったことが明らかとなった。少なくとも日本のサラリーマンに明るい未来は見出せない。労働者として生活できる時間はそれほど残されていないかもしれない。冒頭で述べた「すべての中流家庭は貧困化する」前に、未来を生き残る道を考えたい。

文=いのうえゆきひろ