あの平成一発屋たちは今!? ヒロシ、ダンディ坂野、波田陽区、ささやき女将、ゴージャス松野…

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2019/3/3

『平成「一発屋」見聞録』(宝泉薫:著、工藤六助:イラスト/言視舎)

 一発屋。それは誰もが知るヒットを飛ばすものの、二発目が続かずそのまま消えていってしまう芸能人や文化人のことを指す。昭和世代なら一発屋と聞いたらさしずめ、「完全無欠のロックンローラー」(アラジン『完全無欠のロックンローラー』)、「水割りをくださ~い~」(堀江淳『メモリーグラス』)あたりが頭をよぎることだろう。

 もちろん当の本人は、一発屋を目指していたわけではないはずだ。だが昭和から平成に、そしてその先に時代が移り変わろうとする現在でも、一発屋は生まれては消えている。『平成「一発屋」見聞録』(宝泉薫:著、工藤六助:イラスト/言視舎)は、平成の30年間に登場したそんな一発屋を、余すところなく紹介している。

 同書は前口上にて、平成30年に『徹子の部屋』に出演したヒロシによる「(一発屋とは)世間的にいうと、何か1コ大きく売れて、そのあとだいたい1、2年でしぼんでいくという人を呼ぶんです」という言葉を引用し、

一発屋の定義として、これほどシンプルかつ的確なものはないだろう。すなわち、ひと花咲かせたあと、あっけなく散る人たちのこと。そこには、喜びと哀しみ、かっこよさと恥ずかしさの劇的な落差がある。彼らはそれを短時間で味わい、世間に見せることによって人の世の真実を教えてくれるのだ。

 と、「たかが」「所詮」では決してない、とても重要な意味を持つ存在であると評している。

 では平成の一発屋とは、どんな人たちのことを言うのか。のっけから登場するのが、日テレ系『エンタの神様』やNHKの『爆笑オンエアバトル』などでブレイクしたネタ芸人だ。具体的には、はなわやテツandトモ、ダンディ坂野や波田陽区などだ。しかし一発屋と揶揄されていることを逆手に取るダンディや、弟もナイツの塙宣之として活躍するはなわなどは、正直一発屋感は薄い。女性スキャンダルを起こした長井秀和や、好き嫌いが当初から分かれていたレイザーラモンHGなども著者・宝泉さんは挙げているが、彼らに関しては異論はない。さらに船場吉兆のささやき女将、「空中元彌チョップ」を披露した和泉元彌、AVやプロレス、司法試験などにチャレンジしまくったゴージャス松野など、本業以外で話題になった人たちはその後軒並み語られなくなった。同書はこのような人物を紹介しまくっていて、一人ひとりあげていたらキリがないほどだ。平成は昭和の約半分の時間だが、一発屋の数は昭和に匹敵するのではないかと思う(もっとも昭和20年8月までは、一発屋どころではなかったろうが)。

 しかしお笑い系の一発屋がどの年にもまんべんなくいるのに対し、歌の一発屋は平成22年の『トイレの神様』の植村香菜以降、見かけなくなったと語っている。その理由を宝泉氏は、「誰もが知るヒット曲が生まれにくくなったことが大きいのだろう」と分析している。

『紅白』は依然40%前後の高視聴率を維持しているとはいえ、年寄りにとってはゴールデンボンバーも『女々しくて』だけの企画物バンドにすぎないし、若者にすれば氷川きよしですら「ズンドコの人」でしかなかったりする。

 確かに同書に登場する、classが歌った「夏の日の1993」(平成5年)や平成10年にデビューした19(ジューク)、平成7年にリリースされた高橋洋子の「残酷な天使のテーゼ」などは多世代が聴いていたし、「残酷な天使のテーゼ」に至っては未だにあちこちでかかっている。

 では誰もが知るヒット曲が生まれにくくなったのはなぜか。それはおそらく、平成19年に突如登場したiPhoneを皮切りに、スマホが普及すると同時に音楽配信サイトも普及したからだろう(たとえば日本では平成28年からサービスを開始したスポティファイは、本国スウェーデンでは平成20年から始まっている)。音楽は皆でシェアして楽しむものから、個の愉しみに完全シフトしたと考えられる。

 一方、昭和の頃にはなかったSNSや動画配信サイトなどのおかげで、テレビで見なくなっても生き残っている一発屋もいる。たとえばヒロシやおばたのお兄さんはYouTubeで固定ファンを掴んでいるし、古坂大魔王扮するピコ太郎に至っては、逆にYouTubeからメジャーになっていった。

 さらに宝泉さんは佐村河内氏や号泣会見の元兵庫県議、「ちーがーうーだろー」の元女性代議士までを一発屋に入れているが、彼らは炎上がきっかけで話題になった。炎上系一発屋は、インターネットがない時代では生まれにくかった存在だ。そして『一発屋芸人列伝』(新潮社)を書いた山田ルイ53世など、「一発屋」を商売にする者まで現れたのが、平成一発屋の特徴と言える。

 とはいえネットに接続すれば今でも身近だけど、すっかりテレビではご無沙汰のあの人を、終わりゆく平成とともに振り返ってみるには良いタイミングで、それにうってつけの一冊と言える。次の時代にはどんな一発屋が登場するのか。一発屋ウォッチングのために生きているわけではないが、命が尽きるまで宝泉さんとともに一発屋を見守っていきたい。

文=霧隠 彩子