就職売り手市場の現在とは真逆の“就職氷河期”世代の不遇。低収入・未婚・子なしは自己責任か

社会

公開日:2019/4/4

『アラフォー・クライシス 「不遇の世代」に迫る危機』(NHK「クローズアップ現代+」取材班/新潮社)

 本来なら働き盛りで日本経済を支え、家庭で子育てに邁進しているはずのアラフォー世代が、今仕事や結婚、出産、介護などさまざまな局面で“貧困”に喘ぎ苦しみ、人生の危機を迎えている。

 その実態を取材し、世に問題提起したのがNHKのドキュメンタリー番組「クローズアップ現代+」で2017年と2018年に2回にわたって放送された「アラフォー・クライシス」だ。

 番組が世に知らせたのは、バブル崩壊直後の“就職氷河期”に社会に出た35~44歳(アラフォー世代)の苦境と現実の危機について。多くの人が初職から非正規雇用で働くことを余儀なくされたことで正社員に転換する機会を失い、中年に差し掛かった今でも収入が上がっていないことを指摘。さらに、低収入による“貧困”が未婚や子どもを持てない原因となり、先々の人生にも暗い影を落としているのだといい、放送後には爆発的な反響があった。

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 本書『アラフォー・クライシス 「不遇の世代」に迫る危機』(NHK「クローズアップ現代+」取材班/新潮社)は、25分の放送枠に収まりきらなかった内容をまとめた取材記だ。取材班が行った番組制作のためのインタビューでアラフォー世代が吐露した心の声は、思わず目を背けたくなるほど悲痛であった。

◆池田由紀さん(仮名・37歳)

 精神障害の姉と寝たきりの祖母、目の病気を患う母の3人の介護に追われて生活。初職はフリーターだったが、正社員登用を目指し真面目にグループホームに勤務していた。しかし家族の介護との両立が難しくなり、自身も腰痛が悪化し退職。最近数年は介護に追われてアルバイトもできず、親の年金で家族の医療費や生活費をやりくりする生活だという。

◆山口裕也さん(仮名・39歳)

 婚活中で、経済力のある女性との結婚を希望している。民間では正社員になれず航空自衛隊に入隊したものの、命を預かる仕事の重さに耐えられず約1年で退職。その後はアルバイトを転々とし収入は不安定で、年齢的に正社員になるチャンスはもうないと漏らす。「稼ぎのない自分が結婚を望むなんて悪いことでは」と遠慮があったが、今は考えが変わり、結婚こそが貧しい生活から脱却する機会であると考えているようだ。

 この話を読んで「本人の努力不足では。アラフォーでも人並みの幸せを手に入れている人は大勢いる」と思う人もいるだろう。しかし取材班は、アラフォー世代の社会人としての歩みは、日本の労働環境が激変し、貧富の差が広がった時期とぴったりと重なるという。日本社会の構造的な欠陥が招いた不遇を個人に責任転嫁され、社会的な保障も望めずに40代を迎えてしまったのだ。

◆2018年に40歳になった人の場合

2000年(22歳) 就職氷河期
2006年(28歳) ワーキングプア
2008年(30歳) 派遣切り
2018年(40歳) アラフォー・クライシス

 NPO法人「ほっとプラス」の代表理事で幅広い世代の生活困窮者の相談に乗ってきた社会福祉士の藤田孝典さんは、「40代周辺の方たちは、“一生涯、貧困や生活困窮を宿命づけられている”」と言う。今でも親の収入を頼って暮らす人が多いため、親が倒れたとき自身が低収入であることで、さらに困窮を極めるのだという。また、アラフォー世代の低収入は結婚・出産を遠ざけ、ついには第三次ベビーブームを起こすことができなかった。これは日本の社会保障制度を揺るがす事態であり、もはや、アラフォー・クライシスはアラフォー世代だけの問題ではないことを示す。

 本書では、最後にアラフォー向けの公的機関の職業訓練や婚活サービスなどを紹介しているが、まだ対策は始まったばかりである。本書が少しでも多くの人の目にとまり、社会全体の危機意識が高まることを祈る。

文=三浦小枝