異色の猫マンガ『ウォーキング・キャット』――生ける屍が徘徊する世界を舞台に、ひとりの男と猫の姿を描く!

マンガ・アニメ

2019/4/7

『ウォーキング・キャット』(北岡朋/双葉社)

 ここ数年、「猫マンガ」の勢いが目覚ましい。自由気ままで気まぐれ、かと思いきや、急にすり寄ってきては甘えてみせる。そんな掴みどころのない猫が登場するマンガは、大勢の読者をトリコにしている。『ウォーキング・キャット』(北岡朋/双葉社)も、そのひとつ。ただし、普通の猫マンガとはだいぶ趣が異なる。

 本作の舞台となるのは、「生ける屍」が徘徊するディストピア。街は荒廃し、生命は息絶え、かろうじて生き残った者たちが息を潜めている世界だ。主人公は八尋ジン。彼は生き別れてしまった妻・サトコを捜すため、宛のない旅を続けている。そして、ひょんなことから白猫・ユキに懐かれてしまったジンは、成り行きで旅をともにする。明日の食料さえ確保できるかわからない状況下で、どうしてジンは猫を見捨てないのか。

 それは、猫が希望の光になっているからだ。

 生ける屍が彷徨い、たびたび命の危機に瀕するジンにとって、この世界は絶望そのものだろう。ひとりきりだったら、自ら命を絶ってしまったとしてもおかしくない。けれど、そんな彼を支えるのがユキ。自分以外の誰かのため、守るべきなにかのため、人は生への活力を手にする。ジンにとって、小さなユキは“守るべきもの”なのだろう。

 また、ユキがジンを助けてくれる場面も多々ある。襲ってきた屍に噛み付いたり、ピンチを脱する手段を教えてくれたり……。ジンが物理的に救われるシーンが随所に見られる。そして、それ以上に、精神的な救いとなっていることは間違いない。荒れ果てた世界のなかで、気ままに生きるユキが愛らしいのだ。その様子を見ていると、ジンと自分が重なっていることに気づく。もちろん、現実世界にゾンビなどは存在しない。けれど、なにかに追い立てられるような毎日のなか、ホッと一息つくこともままならない状況は少なくない。そんな忙しない日々において、動物、特に猫の姿は究極の癒やしだろう。命からがら逃げるジンがユキで癒やされるさまは、現代を生きるぼくらそのものと言える。

 第1巻は、ジンが生存者の集う島に辿り着くエピソードで締められる。ようやくサトコに会えるのではないか。ジンと一緒に読者も盛り上がるワンシーンだ。しかし、そこで待ち受けているのは残酷な展開。運命というものの酷さに、しばし声が出なかった……。

 ほんわかした日常ではなく、限りなく残酷な状況下で猫の魅力を描く『ウォーキング・キャット』。これまでになかった新しいタイプの猫マンガを、ぜひ読んでもらいたい。

文=五十嵐 大