吸血鬼のイケメン兄弟に拾われた、記憶のない少女。その体に刻まれた“呪い”の理由とは……?

マンガ

更新日:2019/4/19

『吸血鬼のアリア』(さくまれん/白泉社)

 ヴァンパイアといえば、主に美しい乙女の血を吸う魔物。無理やり血を吸われてヴァンパイアの仲間入りをしてしまった人間の悪戦苦闘か、種族を超えて惹かれあう恋人同士のエロティックラブロマンスが主流……と思っていたのだが、こんなふうに「吸わない」ことで「家族の絆」を描くこともできるのだな、と新鮮な気持ちで読んだのが『吸血鬼のアリア』(さくまれん/白泉社)。

 表紙で抱き合う男女がとにかく美しく、帯の文句も「今宵、吸血鬼兄弟と禁忌に溺れよう――」なのだから、と想像していた展開を大きく覆された。もちろんいい意味で、だ。

 舞台は魔界。主人公は吸血鬼の名家・ローゼンハイン家当主ジークと、弟のテオだ。まだ幼いうちに両親を亡くし、家督を継がなければならなくなったジークは、自分を押し殺して生きてきた。対してテオは、兄の感情を肩代わりするように感情表現が豊かでやんちゃだ。そんな2人がある夜“拾った”のが人間の少女・ルナである。人間界と魔界は「狭間の森」で隔たれている。迷い込んだのか捨てられたのか、傷だらけで怯えるばかり、ろくに言葉を話すこともできずどうやら記憶もないらしい彼女を、兄弟は保護することに。

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 このローゼンハイン家の面々がみんないい人(魔物だが)なのが癒される。ルナの存在が知れたら、彼女が害されるだけでなく、ローゼンハイン家全体が処罰の対象となる。それでもジークは本来的な人のよさと、自分に懐くルナに弟テオのかつての姿を重ねて、優しく接する。テオはテオで、兄ひとりに責任を負わせている自分の不甲斐なさから、守るべき誰かをずっと探していた。つたないなりに言葉を覚え、できることを一つずつ増やしていくルナの愛らしさに、2人きりでどこか閉塞感を抱えていた兄弟の心が開かれていくのを、使用人たちも微笑ましく見守る。それは、血のつながりがなくとも、身分や種族の差はあれども、まぎれもない「家族」の姿だ。

 ルナの愛らしさに欲情し、血を吸いたくなってしまったテオは、兄の腕を噛む。自分はじゅうぶん救われたのだから食べてもいい、というルナに、ジークは頬にキスをするにとどめる。そうはいっても他人なのだから、家族愛以外の感情がないとはいわない。それでも相手を思いやり、心も身体も守ろうとする兄弟にはキュンとせざるをえない。

 が、禁忌を破ってただですむはずもなく。人間を隠れて飼育している魔物への摘発が強化され、3人は危機にさらされる。しかも、どうやらルナが見た目より幼いのは、その身に刻まれたある“呪い”が原因らしいとわかり……。張られた数々の伏線のゆくえや、3人の関係がどのように変化していくかが2巻の読みどころ。だがどんな展開をたどるにしても、3人の幸せで穏やかなひとときがいつまでも続いてくれることを願わずにはいられない作品である。

文=立花もも