ZARAが好調な理由は? アパレル業界勢力図の未来を予測する!
更新日:2019/5/7
スマホの普及でライフスタイルが大きく変化したように、いま、ファッション消費の世界でも大きなパラダイムシフトが起きているという。アパレル業界は、その大変革を乗り越え生き残る術を懸命に探っている――本稿で紹介する『アパレル・サバイバル』(齊藤孝浩/日本経済新聞出版社)が描くのは、そんな光景だ。さっそく冒頭の「10年後のファッション消費の未来」と題されたショートストーリーから、少し引用してみよう。
■AIがあなたのコーデを決める日がやってくる
“彼女のスマートフォンにはクローゼット管理アプリがダウンロードされています。(中略)アプリはAI(人工知能)を使って、平日はオフィス向けのきれいめな服を、週末はカジュアルウエアを、1週間分コーディネートして提案してくれます…”
これを読んだあなたの感想はどうだろう。「なんだかワクワクする!」か、それとも「AIに着る洋服を提案されるなんてイヤだな…」という否定的な気持ちだろうか?
著者である齊藤孝浩氏は、業界向け、また消費者向けのファッション関連情報を多くの媒体に寄稿してきたファッション流通コンサルタントで、業界と消費者の動向を過去から現在まで知りつくしているだけに、その語り口は切れ味するどく歯切れがよい。
たとえば10年ほど前に誕生して一世を風靡し、いまや私たちにとって当たり前の存在となった「ファストファッション」について。ユニクロやH&Mなどの低価格の洋服が大流行したのは記憶に新しい。しかし「安かろう悪かろう」といった質の低いものはいずれタンスの肥やしになってしまうし、低価格を追うあまりに人件費などのコストを極限まで下げた企業の姿勢は社会問題にもなった。
このような使い捨て前提のファッションに対して消費者意識も変化してきており、その結果H&Mなどは近年、苦戦が続くという。そんななかで、ZARAの躍進は注目すべきだそう。なぜZARAは好調なのか? ――それは「服選びで顧客に失敗させない」という工夫をこらしてあるからだというのだが、その具体策はぜひ本書で確認されたい。
■「売ったらおしまい」というビジネスモデルは崩れる
著者の切れ味するどい指摘は、アパレル業界の過去、現在だけでなく「未来展望」についても遺憾なく発揮される。
本書のなかで注目すべきトピックのひとつに、「顧客のワードローブを管理する未来」を予測していることがある。つまり、新しい服を買うこと以外に、不要な服を中古で売るシステムやクリーニングをして保管する倉庫、さらに急なパーティに必要なドレスを一時的にレンタルするなど、単なる売買の関係を超えた動きが始まっている。そしてその成功のカギとなるのが、「顧客のワードローブの可視化」だという。こうして見ると、冒頭の引用で登場した「管理アプリ」のようなものが現実のものとなる日もそう遠くなさそうだ。
本書を一業界の解説書として位置づけるのは簡単だ。しかし、華美なブランド品には興味がないという一般の消費者にも考えさせられるテーマは多い。たとえば、終章のタイトルにもなっている「サステイナブル(=持続可能)なファッション消費」という言葉だ。
本書を読めば、ファッションに限らず、今後は人間の消費活動そのものがサステイナブルなものである必要性を感じるはずである。
洋服を「着る」ことは生活そのものだ。だからこそ、ファッション消費において、消費者がどのようなライフスタイルを送りたいかという価値観は一層重要となっていく。そのような世界、つまり未来では「買いたくさせて、売っておしまい」ではなく、消費自体を循環させることで“持続”していくシステムを築いた者が、勝者となるのだ。
文=バーネット/田中美智子
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