「わたし今、引くくらい怒ってる…」言い返せない怒れない“いい人”をやめてみた実録エッセイマンガ

マンガ

更新日:2019/6/13

『わたし、いい人やめました』(カマンベール☆はる坊/講談社)

 相手に嫌なことを言われたとき、「そんなひどいこと言わないでよ」と怒れる人もいれば、「あはは」と愛想笑いで濁してしまう人もいる。私は後者だ。いつも、その場で「ん?」という違和感を抱きつつも、とっさに怒る勇気が出ないのだ。そして大体いつも、家に帰ってから「なんであんな言われ方されなきゃいけなかったんだ」とひとりで怒りを沸騰させてしまう。

 カマンベール☆はる坊さんの『わたし、いい人やめました』(講談社)は、そんな「その場で怒ることができない」人にとって、具体的な解決策の盛り込まれた1冊だ。

 著者のはる坊さんは、昔からもめごとは避け、おだやかに過ごすことを第一としてきた。なぜなら、その方が「うまくやれそう」だと思っていたから。32年間、おだやかにうまくやってきた著者は、しかしある日、突如我慢の限界を迎える。

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 それは、会社の企画チームの飲み会で起こる。著者が出した商品について、若い社員から「私のほうがまだ20代でフットワーク軽いですし」とプロジェクトを横取りされそうになったのだ。周りは彼女のその横暴な発言に驚き止めようとするが、当の本人は頭が真っ白になり、「そっか……」とだけしか言えなかった。

 その商品は、著者が困っている同級生を助けたい一心で、休日も返上しひとりで立ち上げてやっと軌道に乗り始めているものだった。それを若い社員からバカにされ、横取りされようとしている。あまりの悔しさに、帰宅してお風呂に入りながらはる坊さんは涙を流した。

 そして、日がたてば落ち着くと思っていたモヤモヤは、むしろ日が経つにつれて増していく一方で、抱えきれなくなった著者は自分の気持ちを紙に書き出してみた。そこで気づく。

「自分でも引くぐらい怒ってるとやっと自覚した」

 自身の怒りを自覚し、プロジェクト横取りの件を大人の対応で防いだ著者は、はじめて「いい人(=社会規範を気にしすぎる人)」のレールを外れた爽快感を味わうのだった。

 そこから、著者の「怒る」ための試行錯誤が幕を開ける。

 この作品の素晴らしい点は、だからといって誰彼構わず今までの怒りを爆発させる、といった短絡的な解決手段に頼らないところだろう。まずは、溜め込んでいた不満を夫にぶつけるところから始まり、今までモヤモヤを抱えていた自分を冷静に分析し、何に怒っているのか、どうすれば伝わるのか、悩み考えながら、少しずつ前進していく。

 特に感動したのは、友人に嫌なことを言われたときに怒れない自分に気づいたときの回だ。

 あまりに失礼なことを言われているのに、なぜ自分は怒れないのだろう、と分析したときに気づいたのは、自分が相手を「メリット」として捉え、メリットがなくなることが怖くて怒れないのだ、ということ。相手が好きだから怒れない、相手を傷つけたらかわいそうだから怒れない、ではなく「味方がいなくなる」ことの怖さから逃げるための「怒れない」であったのだ。それを著者は「あなたのこと好きじゃないけど見捨てないで〜」という表現で描いており、秀逸。

 今まで溜めていた怒りを、どう適切に吐くか考えて行動するはる坊さんの冷静さを見習いたい。そこには必ずしも相手ばかりが悪い世界があるのではなく、ずるい自分も含めて認めてあげるプロセスがある。読みながら「いい人」をやめても「悪い人」になるわけではない、ということにも気がつけた。その場で怒れないタイプの人にぜひおすすめしたい作品だ。

文=園田菜々