昭和の思い出がいっぱい詰まったイラスト、おばあちゃんの梅さんと孫の小梅さんコンビにほっこり!大切なあの人を思い出す癒やし系コミック

マンガ

公開日:2019/4/26

『梅さんと小梅さん 親友はおばあちゃん』(ホンマジュンコ/KADOKAWA)

 1年前に脳出血が原因で他界した祖母に、私は何をしてあげられたのだろう…。祖母と孫の交流をハートフルなタッチで描いた『梅さんと小梅さん 親友はおばあちゃん』(ホンマジュンコ/KADOKAWA)を開くと、筆者の頭と心にはそんな想いと、今は亡き祖母との思い出が蘇ってきます。

 本作はおばあちゃんと孫の女の子の日常をほんわかとしたイラストで描いた作品。

 インスタグラムで人気を博し、この度、書籍化となりました。

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 舞台は昭和50年代の秋田県。小梅さんはお父さんとお母さん、そしておばあちゃんの梅さんと共に暮らしています。梅さんと小梅さんは大の仲良し。ふたりはいつも一緒に遊んだりおやつを食べたり、お風呂に入ったりしながら、移ろいゆく四季をのんびりと楽しんでいます。

 本作は、著者のホンマさんの実体験と叶えたかった憧れが込められたセミフィクション。数年前まで、家族を犠牲にしながらもデザイン事務所での仕事に没頭していたというホンマさんは祖母を亡くして初めて、取り戻せない大切な時間があることに気付いたそう。感慨深い経験をもとに生み出された本作は、限られた家族との時間をどう慈しむかを考えさせてくれる一冊です。

■なにげない日常こそが幸せの宝庫

 大人になると、繰り返される日常に嫌気がさしてしまったり、退屈な気持ちを抱いてしまったりするもの。中には、過ぎゆく時間にただただ身を任せている人もいるはず。しかし、梅さんと小梅さんの日常を目の当たりにすると、なにげない日常にこそ幸せは溢れているのだということに気づかされます。心も体も寄り添わせながら、変わりゆく季節をめいっぱい楽しんでいるふたりの姿は私たちの胸を締め付け、温かい気持ちを呼び起こしてくれるのです。

 秋田弁を話す梅さんに、自分の祖母を重ね合わせる読者はきっと多いはず。実際、筆者も梅さんの言葉から、方言が混じった亡き祖母の話し方を連想し、一緒に過ごした日々がたまらなく恋しくなりました。

 大人になると、祖父や祖母との関わりは親以上に希薄になってしまいます。しかし、祖父や祖母は親以上に、一緒に過ごせる時間に限りがある存在。小さな頃に惜しみない愛情と暖かい眼差しを注いでくれた大切なあの人に、私はどんなことができるのだろう。そう考えさせてくれる本作には、優しい時間が流れているのです。

■大切なあの人にもう一度会わせてくれる本

 本作は懐かしい昭和の時代にいつでも浸れるノスタルジックな一冊です。ちょっぴり夜更かしして見た「日曜洋画劇場」や、日が暮れるまで遊んだ土管のある空き地、大きな缶から出てくるおせんべいや飴などは、どれも忘れられない楽しみでした。今ほど便利な時代ではなかったからこそ、昭和という時代には心に染みる娯楽がたくさんあったように思えてなりません。

 そんな娯楽を仲良く楽しむ梅さんと小梅さんの姿から私たちは、大人になっていくうちに忘れてしまった大切なものを見いだせるはず。本作にはインスタグラムで話題になったイラストだけでなく、懐かしくてちょっぴりホロリとする描き下ろしの短編7話も収録。

描き下ろし短編「タイムカプセル」より

 より深くふたりの絆が感じ取れる短編作品は、ページをめくる度にふたりの明るい笑い声が聞こえてきそうです。

 小さな頃に一緒にしたお手玉や、庭で作ってくれた自家製の梅干し、野菜が多めな焦げたチャーハン。それらを筆者に見せてくれた祖母は、もういません。けれど、本作を手に取ると祖母に会えているような気持ちになってきます。

「そういえば、こんなことあったなあ…」と、祖母との過ぎし日の思い出や、なにげなさすぎて忘れてしまっている記憶に浸らせてくれる本作は、大切な人との時間は、いつか終わってしまうかけがえのないものだということに気づかせてくれる作品です。

文=古川諭香