乳酸菌は腸に住み着かない? 肌のためには水洗いがいい? “ちょっと驚く”微生物の話

暮らし

公開日:2019/5/5

『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(左巻健男:編著/明日香出版社)

 目に見えない小さな存在「微生物」。私たちは人と人が関わる社会の中だけで生きているように感じる。しかしそれ以上に人と微生物が関わる毎日があることを『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(左巻健男:編著/明日香出版社)が教えてくれる。

 ビールや日本酒は発酵菌のおかげで毎晩美味しく飲める。パンはイースト菌のおかげでふっくらもちもちとした食感が楽しめる。下水処理は微生物の力に頼りきりだ。これらは周知のことだが、本書はもう少し掘り下げて微生物の世界を解説している。

■肌と常在菌の密接な関係

 私たちの皮ふには「常在菌」と呼ばれる微生物が住んでおり、肌の表面をきれいに保つ働きをしている。洗顔や入浴で肌を洗うと彼らも汚れと一緒に落ちてしまうが、毛穴の中にかすかに生き残っていた菌たちが復活して、半日ほどで元通りになる。

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 ところがクレンジング剤や洗顔料を使ってゴシゴシ洗いすぎると、角質細胞まで汚れと一緒に落としてしまうので、肌が乾燥しやすくなる。すると常在菌が住みにくい環境になるので、肌に悪影響を及ぼしかねない。時々はメイクをしない日を作り、その日は朝晩ともに水洗いだけ済ませるのが、キレイなお肌を保つ秘訣だ。ちなみに汗は常在菌のエサになるので、適度な汗をかくことも美肌を保つコツ。

■除菌や抗菌グッズの使いすぎに注意?

 このように微生物の働きを知れば、私たちの日常がちょっと良い方向に向かう。微生物は目に見えない存在なので、一方的に「汚い!」と決めつけて殺菌しがちだが、過度に彼らを嫌うと良くない方向に働くこともある。

 除菌や抗菌グッズが人気だ。ますます過熱しているように感じる。悪い働きをする微生物も存在するので、清潔を意識することは大事だ。けれども私たちの体は常在菌や腸内細菌など、無数の微生物が住み着くことで、健康という絶妙なバランスを保っている。下手な除菌・抗菌がこのバランスを崩しかねない。さらに菌を殺して微生物たちのバランスが崩れると、普通はかからない病原体に襲われるかもしれない。私たちの健康は、見えない力に守られたり襲われたりするのだ。

■「生きたまま腸に届く乳酸菌」は、腸に住み着くわけじゃない!?

 本書を読んで驚いたのが、乳酸菌の解説だ。スーパーでは「生きたまま腸に届く乳酸菌」が入ったヨーグルトを見かける。この表示を見て私たちは、「このヨーグルトを食べたら、乳酸菌が生きたまま届いて、腸内にとどまって良い作用を生み出すんだ!」と思う。そう思ってしまう。

 しかし本書によると、生きた乳酸菌を含むヨーグルトを食べても、胃酸に負けて、生育可能な状態で腸に届かないそうだ。…ショックだ。さらに生きたまま乳酸菌が届いたとしても、腸に定住することなく通過していくという。…超ショックだ。ヨーグルトを食べても肝心の乳酸菌は体から排出されるのだ。

 だからといって無意味なワケではなく、乳酸菌が生きたまま届くと、腸内細菌に良い影響を与えるものを分泌してくれる。死んだ乳酸菌は腸内細菌のエサになるので、やっぱり良い影響を与える。ヨーグルトは腸の味方だ。けれども商品の巧妙な表示には気をつけたい。

 見えない力はあなどれない。本書を読むとそう感じさせてくれる。ヒトの体は37兆個の細胞から成り立つが、微生物はその数をはるかに上回る。私たちの健康は微生物で支えられている。目に見えない力は偉大だ。

文=いのうえゆきひろ