「ロリータ服を着たい」女子大生・マミの誰にも言えない秘密ーー 自分探しの「服」物語

マンガ

更新日:2019/6/13

『着たい服がある』(常喜寝太郎/講談社)
『着たい服がある』(常喜寝太郎/講談社)

「ロリータ服を着たい」それは、女子大生・マミの誰にも言えない秘密だったーー 。『着たい服がある』(常喜寝太郎/講談社)は、ロリータファッションを隠れて好むクール系女子大生・マミが、ある出会いをきっかけに「自分探し」を始めるというストーリーだ。

 本書の監修は、サブカル系ファッション好きの若者に絶大な人気を誇るファッションデジタルマガジン『KERA』だ。『KERA』は2017年6月号をもって紙媒体による発行を終了し、現在はWebサイトにてデジタルマガジンとして情報を発信している。

 主人公のマミの心の拠り所は、自室のクローゼットの奥に隠してあるロリータ服。彼女は身長が高くクールな顔つきなために「かっこいい」と褒められたり、「かっこよくあること」を求められたりする。少しガーリーな服を着ると周囲に「おかしい」と言われ、それに合わせてクールな服装をするとやっと褒められる。マミはそんな毎日にもやもやしていた。

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 マミは、自分にロリータ服なんか似合わないだろうという気持ちと、変わった格好をすると周りに笑われるだろうという思いから、ロリータ好きを公言できずに暮らしていた。そんな中、ある人物との出会いをきっかけにマミの「常識」への向き合い方が変化していくーー。

 マミはその外見から「意志が強い」というイメージを持たれており、周囲には「芯がある子」「自分を持っている子」といった見方をされている。街でマミを見た知らない人々さえも、その強くてかっこいい雰囲気を噂して羨ましがる。マミの妹は、マミと「可愛らしさ」はミスマッチであると茶化し、母親はマミを「やりたいことを全部叶えていて自慢の娘」と評している。

 マミが自分の好きな世界を堂々と表現できない原因には、友人や学校・職場といった「外の社会」と、家庭という「内の社会」が関わっている。来年に就職を控えたマミとその同級生たちはいやでも「現実」を意識して生きなければならない。

 日々その「現実」で働く読者の中にも、自分のありたい姿、やりたい生き方を押し殺しているという人が多いかもしれない。もしくは、自分が本当は何が好きだったのか、何に憧れていたのかということもわからなくなっているという人もいるかもしれない。

「この個性を大事にするご時世、“他人の目なんか気にしない”とかっこいい自分でありたいけど、本当はやっぱり気にしてる」…いま現在そう感じているかもしれない。けれど、そうなってしまうのが当たり前で、それが社会で生きる大人というものかもしれない。

 ただ、この女子大生の物語があなたの心に触れて、フッと何かが外れるとしたら、それは毎日を生きるあなたにとって大切な出会いとなるだろう。本書の表紙では、強気な目をしたロリータ服の主人公が、雑踏の中こちらを振り向き立っている。そんな目を引く表紙だが、開いてみるとそこでは想像以上に「普通」な女の子が葛藤を繰り広げていて、彼女が勇気を獲得していく様子には思わず目が覚める。本書は、自己肯定感を持てない人々が、己の固定観念を少しずつ破いていくきっかけを与えてくれる、大変貴重な1冊である。

文=ジョセート