口の軽いヤツは“使える”って知ってる? 『孫子』に学ぶ、現代を勝ち抜くビジネス術

ビジネス

2019/5/31

『もし孫子が現代のビジネスマンだったら』(現代ビジネス兵法研究会代表・安恒理/フォレスト出版)

『孫子』という中国古典をご存じだろうか。高校の漢文や世界史の中に出てくる単語として憶えている人も多いことだろう。もしかすると人によっては、「何だか“我孫子(あびこ)”みたいだなぁ…」程度かもしれないので、少しばかり解説を挟ませていただく。

『孫子』とは、約2500年前の中国春秋戦国時代の軍事思想家・孫子(孫子は尊称で、本名は孫武)の教えをまとめた兵法書だ。当時の中国は諸国が戦争に明け暮れていた時代。「武運が戦争の勝敗を左右する」という思想がまだ強かった中、孫子は「人為によって勝敗は決まる」と断言し、論理的な“戦い方”を確立したことで一躍有名となったのだ。

 数多の戦いの中で得た戦略や戦術のみならず、人間そのものの追究や戦地での人間心理までをも網羅する『孫子』は、現代のビジネスや政治などの舞台でも役立てられているのだという。

『もし孫子が現代のビジネスマンだったら』(現代ビジネス兵法研究会代表・安恒理/フォレスト出版)という書籍は、現代のビジネスシーンにおける課題を具体的に取り上げながら、『孫子』からその解決法や考え方を探るものだ。実際のビジネスの現場でも、孫正義氏やビル・ゲイツ氏が「孫子の兵法」を活用しているのだという。

■情報を味方につけ、「戦わずして勝つ」

 兵法書と聞くとどこか好戦的な印象を抱く人もいるかもしれないが、『孫子』の神髄は、「大損害をもたらす戦争は極力避け、双方の利益を最大限に高めながら平和を追求すること」である。

 他の兵法書が目先の戦いに勝つことを目標とする「戦術」に重きを置いているのに対し、『孫子』は国家の運営という大所高所から戦争という外交の一手段を俯瞰しているのだと本書は説く。そしてそこで重要になってくる概念が「情報」なのだという。

 できるだけ戦争を避け、もし衝突してしまった場合に敵味方のどちらが優勢になるのかを見極めるためには、ありとあらゆる情報の受け方や扱い方が重要となる。そこでは、「状況をうまく読み取れるか」「ものの見方が一面に偏っていないか」「思い込みが強くないか」など、あなた自身や組織の「情報感度」が問われることになる。

■情報を操り、スパイや口の軽い人を逆利用する

『孫子』はスパイを「間」と称してさらに分類し、情報戦の戦術を説いている。スパイが個人のビジネス術とどう関係するのだと思う人もいるかもしれないが、実際に企業間や、企業内の派閥間、さらには個人間でも、小さなスパイ活動やそれによるいざこざが日々さまざまなかたちで発生している。

 またスパイではなくても、単純に口が軽くて危なっかしい「無意識の情報漏洩者」ならば組織内に数名いるかもしれない。そんな危険な状況下で、いかに情報を自分の味方につけて敵やライバルを操るのかという課題も本書では扱われている。

『孫子』の教えを会得している人であれば、情報漏洩の「容疑者」たちにあえてたわいもない情報を流し、どこから情報が洩れているのかを把握したりするのだという。また、厳しい企業間競争によってライバルから送り込まれたスパイを発見した場合にはタイミングを見計らって大嘘を流し、相手の行動をこちら側がコントロールすることも可能だ。

 会社側の待遇に不満がある場合には、口の軽い部下に向かって酔った勢いで(と見せかけ、ちゃんと計算の上)「実はライバル企業からスカウトの声がかかっている。しかも部署丸ごとだ」などといった虚偽情報を吐く。後日噂が広まって待遇が改善されれば、まさに「スパイを逆利用し、戦わずして勝った」という最もおいしい状況を得られる。

 しかしここで気を付けなければならないのが、これらの虚偽発言を完璧なものとして敵のもとまで泳がせるためには、自身や部署の社内評価や自社・他社の状況など、ありとあらゆる情報を押さえておかなければならないという点だ。実際の情報を自身がはき違えたまま虚偽の情報を流したりすると、それこそホラ吹きのレッテルを貼られて冷遇されることにもなりかねない。

 ビジネスも、政治も、外交も、スポーツも、ありとあらゆる「戦い」の真髄は「情報」にあるということを痛感させられる一冊だ。ダメージの大きな衝突を避け、戦わずして勝つためにも、『孫子』の兵法は押さえておきたい。

 また本書を購入すると、「孫子の兵法」の全原文および著者による全訳のPDFを指定のURLから無料の読者プレゼントとして受け取ることができる。こちらもかなりきれいにまとめられており、学習に最適なので併せてお薦めしたい。

文=K(稲)