彼氏の愛が重すぎる……!? 恋愛に興味のなかった女子高生の心を溶かしていくのは、純情で荒々しい彼氏の××

マンガ

公開日:2019/6/25

『隣の席の神崎くんと××してしまった』(花宮 初/白泉社)

 カラダから始まる恋もある、というと、遊び人の男性に恋をしてしまった女性、という構図がこれまでの女性向けマンガには多かった気がするが、今も昔も、性的にドライな女性というのは少なからず存在する。白泉社のウェブマガジン「Love Jossie」がおもしろいのは、性的にはもちろん、恋愛的にもドライな女子を描いたマンガをいくつか掲載しているからだ。なかでも注目なのが『隣の席の神崎くんと××してしまった』(花宮 初/白泉社)。電子書籍サイト「Renta!」で殿堂入りしたのも納得の作品である。

 主人公の帆花は、恋愛にあまり興味をもてない女子高生。モテないわけではないし、つきあった彼氏とはセックスもする。とくべつなトラウマがあるわけではないけれど、どうしても誰かひとりにのめりこむことができない。そんな彼女の、隣の席に座っているのが神崎。なぜか帆香に対してだけ不機嫌で冷たい彼が、実は自分のことを好きだと知り、うっかりセックスしてしまい……というところから始まる。

 正直、風邪で寝込んで休んだ女子を押し倒すんじゃないよ、と神崎には説教をかましたくもあるのだが、好きな女子が隙だらけで、拒否するそぶりもなく、そして恋に不慣れな童貞高校生だから、まあ、いたしかたない。一方、帆香は予想をうわまわるドライさで、流されるままセックスした感想は「あーやっちゃった」。そして翌日、「付き合うのは正直自信ないけど、したいなら時々してもいい」と告げる。セックスをした=両想いと信じている神崎に。この温度差が、本作の醍醐味である。

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 けっきょく2人はつきあうことになるのだが、初めての彼女、初めてのセックスに溺れ、四六時中一緒にいたい、触れ合っていたいと思う神崎に対し、これまで彼氏とは月1程度会えればいいと思っていた帆花。ありあまる愛情と溺愛っぷりに重いな……と引き気味になり、それにショックを受ける神崎。そのやりとりがおもしろく、なんだかクセになってくる。

 とはいえ帆花だって、神崎が嫌いなわけじゃない。むしろ、うっとうしいなあ、めんどくさいなあ、と思いながらじわじわ愛情が育ってくる。恋愛にふりまわされずにきたのは、相手に執着しなければ、失うのが怖くもないからだ。そしてそんな自分は嫌いだ、と思っていた帆花は、神崎を通じて、真正面から相手に向き合うことで新しい世界に触れていく。体を重ねるのはただ快楽のためだけではなく、愛情を確認しあうため、深めていくためのものでもあるのだということも知る。

 余裕がなくどこか荒々しいけど愛情たっぷりの神崎と、淡白でクールだけれどそのぶん相手の気持ちを受け止める度量をもつ帆花。あんがいこういうカップルは多いと思うが、これまでマンガではあまり描かれてこなかっただけに新鮮だ。人によっては帆花より神崎に感情移入するかもしれないが、どちらに共感するにせよ、ラブシーンはもちろん、ちぐはぐな2人が少しずつ寄り添っていく過程にきゅんとすること間違いなしである。

文=立花もも