血のつながらない子と本当の親子になるには? 新しい形をひた向きに模索する『かぞくを編む』

マンガ

公開日:2019/6/27

『かぞくを編む』
(慎結/講談社)

 さまざまな生き方が受け入れられつつある現代、家族の形も多様化してきた。「特別養子縁組」にスポットを当てる『かぞくを編む』(慎結/講談社)は、複雑な時代を生きる私たちに、家族に対するひとつの明るい希望を抱かせてくれる感動作だ。

「特別養子縁組」とは、さまざまな事情から育てることのできない子どもを“育ての親”に託す制度。「普通養子縁組」とは違い、子どもは産みの親との親子関係を解消し、育ての親と新しい親子関係を結ぶ。育ての親と子どもは家庭裁判所の審判により、戸籍上でも実の親子になれる。

 現在、「特別養子縁組」の対象となる子どもの年齢は原則6歳未満だが、15歳未満に引き上げる民法などの改正案が2019年6月に参院本会議にて賛成多数で可決されたばかりだ。これによって、児童養護施設に入所している年長の子どもたちも、心安らげる家族を新しく手に入れられる可能性が高まるのではないかと期待されている。

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■養子を迎える期待感がプレッシャーになってしまうことも…

 さて、ストーリーの舞台は、民間養子縁組あっせん機関「ひだまりの子」。ケースワーカーとして働く主人公・須田ひよりの言動や養親たちの姿に、私たちは新しい家族の形を見る。「血がつながらない子どもを我が子にする」という事実と向き合いながら、少しずつ“親”になっていく大人たちの姿にも胸が熱くなり、“真の親子”とは何だろうと考えさせられてしまう。

 子どもを育てあげるために必要なものとは一体何だろう――子育て中や妊活中に、そんな疑問を抱いたことがある方は男女問わず多いはず。生涯困らせないだけの経済力やゆるぎない愛情は子どもを成長させるために大切なものだ。しかし、もっとも重要なのは“親であり続ける”という覚悟なのかもしれない。

 血のつながっていない子どもの親になるには想像以上のプレッシャーがのしかかってきたり、言いようのない不安感が押し寄せてきたりもするはず。期待と不安が濃く入り混じった養親の複雑な胸の内は、本作に登場する黒沢夫婦の姿からも見てとれる。

 度重なる流産を経験し、特別養子縁組によって赤ちゃんを授かった黒沢夫婦。最初は待ち焦がれていた小さな命に胸を弾ませていたが、いざ新生活を始めてみると2人は大きな壁に直面することとなる。

 初めての育児に戸惑う妻の晴と、子育てを上手くサポートできない夫の龍。「立派な親でありたい」と望むあまり、2人の心はぶつかりあってしまう。産みの親ではないからこそ生まれる「血がつながっていたら、もっと子どもの気持ちを分かってあげられるかもしれない…」というもどかしさは、養親ならではの悩みなのだろうか。

 はたして、ひとつの家族となるのに血のつながりは本当に必要なものなのだろうか。ひとつひとつの壁を夫婦で乗り越えながら家族と子どもの笑顔を紡いでいけたら、いつの間にか血よりも深くて濃い絆ができていく。そして、その先には血のつながりを超えた自分たちなりの“家族”の姿があるはずだ。

 私たち大人は、戸惑ったり涙を流したりしながら、子どもたちによって“親”にしてもらえるのかもしれない。回り道をしてもいい。血のつながりに負い目を感じなくてもいい。心を通わせながらゆっくりと、自分たちらしい家族を編み、本当の親子になっていけばいいのだ。

 養親になることの苦悩と喜びがリアルに描かれている本作は、“本当の家族の形”についてじっくり考え直すよいきっかけを与えてくれる。家族は、一緒に悩んだ日々や心の交流によってしっかりと編まれていくのだ。

文=古川諭香