ド変態執事×内弁慶お嬢の恋はどこへ向かう――!? 音久無最新作『執事・黒星は傅かない』

マンガ

公開日:2019/7/25

『執事・黒星は傅かない』(音久無/白泉社)

 爽やかな朝、天蓋つきのベッドでまどろんでいると、どこからともなく紅茶の香りが漂ってきて、「お嬢様、朝でございます」なんていう執事のイケメンボイスで目が覚める──乙女なら、誰だって憧れるシチュエーションだ。けれど、『執事・黒星は傅かない』(音久無/白泉社)に登場する執事・黒星(くろぼし)は、ちょっと違う!

 主人公の西園寺紫(さいおんじ・ゆかり)は、お嬢様学校に通う高校1年生。紫のそばには、執事の黒星が影のように控えている……はずなのだけれど、この黒星、影にはおさまっていられない男だ。朝は紫が二度寝しているベッドの中に潜り込み、髪のセットを任せたら、「こちらのほうがお似合いかと思いましたので」と要望とは違う髪型にする。結果、紫は起きられるし、「似合う」と言われて悪くない気分にもなるのだが、執事が主人の言うことを聞かないなんて、本来あってはならないことだ。しかし黒星は、紫に文句を言われても、「私の主人はお祖父様であって、お嬢ではございませんので」。

 さらに、紫の着替えの時間ともなると──。

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 執事のくせに自由奔放、そしてド変態。そんな黒星に恋をしてしまっているのだから、紫の青春は前途多難だ。けれど、紫の高校生活がハードなのは、黒星のせいだけとは言い切れない。そもそも黒星が紫にべったりなのは、紫に友達がいないから。そう、紫は、ハイパーお嬢様なご学友たちに馴染めない、コミュ障内弁慶だったのだ!

 とはいえ紫も、世話をされているだけのお嬢様ではない。コミュ障を克服するため、おしゃれなサロンに行って髪型を変えてみようと奮起する。が、黒星は、「お嬢の髪に触れていいのは私だけ」と完璧なカットの手腕を披露してしまうし、それならおしゃれなパンケーキでも食べに行こうかと思っても、目の前に黒星の手作りインスタ映えプリンを差し出されては、ひとたまりもない。

 こんなことでは、いつまでたっても内弁慶から抜け出せないままだ。それなのに黒星の行動を受け入れてしまうのは、散髪も、紫が落ち込んだときに食べたがるプリン作りも、彼が昔、紫のために、一生懸命練習してくれたことを知っているから。

 紫はわかっている。こんな暮らしが、ずっと続くわけがない。いつまでも、黒星に一緒にいてもらうわけにはいかないのだ。紫は、内側に閉じこもっていた自分を変えようと一念発起、ある決断を下すのだが──?

 外に向かって羽ばたこうとする箱入りお嬢と、かしずかない執事の黒星。ふたりの関係がただのイチャイチャを超えて魅力的に映るのは、ふたりが自分の思い描く夢に素直で、各々できる限りの努力をしているからだ。

 大ヒットシリーズ「花と悪魔」「黒伯爵は星を愛でる」の音久無さんが描く奔放執事×内弁慶お嬢様のストーリーは、ショートショートを積み重ねていく描き方も、ラブコメにぴったりのリズムで心地いい。かしずかない、けれど主人想いな奔放執事に、あなたも振り回されてみては?

文=三田ゆき