42歳独身女性…体の異変に“死”を意識して――「部屋汚いし、PC・スマホも滅却したいのに」

マンガ

更新日:2019/8/10

『あした死ぬには、』(雁須磨子/太田出版)

「あした死ぬには…」。この文章の続きを作るとしたら、あなたは何を書くだろうか? あした死ぬには「やり残したことがあり過ぎる」か、「丁度いい」のか。

 本作『あした死ぬには、』(雁須磨子/太田出版)の登場人物、本奈多子(ほんな・さわこ)は、映画宣伝会社に勤める42歳独身(彼氏無し)女性だ。

 ポンコツな同僚にイライラすることはあっても、大好きな映画に関わる仕事を精力的にこなし、人生、そこそこ満足している。

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「もー、いつ死んでもいいような気だってするけど」。そう思っていた多子だったが、ある晩、激しい動悸と冷や汗に襲われた。

 怖くなった多子。「やり残したことがたくさんある」ことに気づく。

「映画祭も途中だし、部屋だって片づけてない。憧れの映画監督にも会えてないし、パソコンとかスマホも滅却したい。病院とか、ちゃんと行っときゃよかったなぁ……」

 ふと、多子は高校生の時に「55歳でコローって死にたい」と友人に話していたことを思い出す。

 自分、42歳。

 若かりし時、「これくらいで人生充分!」と思っていた55歳までは、あと13年だ。

 結局、動悸と冷や汗は更年期障害で、重篤な病気ではなかったのだが、この出来事を機に、多子は自分の人生について考えることになる。

 彼女は、20代とも、30代とも違う「40代の壁」にぶちあたっていたのだ。働き方にしても、がむしゃらな無理は身体がもたなくなっている。独身ということで、貯金が潤沢にあるかというと、老後の不安を解消するほどの余裕はない。これからの人生プランに迷い、「生きるのも怖い」と感じたり。

 しかし一方で、「今まで気づかなかった『新しい自分』」に出会えることを、どこかで少し、楽しみにしていたり。

 また、本作の主人公は多子だけではない。多子の同級生だった小宮塔子(こみや・とうこ)の話も描かれている。塔子はおっとり可愛い専業主婦。大学生になる娘とは仲良しで、夫婦仲も悪くない。金銭的に困っているわけでもなかったのだが、夫の単身赴任をきっかけにパートへ出る。そこで塔子は、自分が「おばさん」であることを、まざまざと実感するのだ。

 飲食店の制服が帽子だったため、仕事終わりに髪がぺしゃんこになってしまうことを気にする塔子。だがパート仲間は「どうしてもぺしゃんこになっちゃうよね。あたしも最初格闘したけど、最近はまぁいっかーって……」と、明るく笑い飛ばす。

 そしてさらに「誰もこんなおばさんの頭なんか見てないわよ!」と、悪気のない一言。
しかしその一言に、塔子はショックを受ける。若い頃は、それなりに他人にチヤホヤされていた。しかし自分の時代は、いつの間にか終わっていたのだ。塔子は娘に語る。「ママ、ちゃんとおばさんにならなきゃって思ったの」と…。

 多子と同じく、塔子も42歳という年齢について、深く考えることになる。

 42歳。世間からの「見られ方」と、自分の認識のギャップ。「おばさん」として、世間が求めている姿と、自分の感覚はズレていた。髪がぺしゃんこになって、若い子のように恥じるのは、「おかしいこと」なのだ…。

 塔子はふと、久しく会っていなかった多子のことを思い出す。「同じくらいの年の子に会って、とりとめのない話を、色々としたい」。そして塔子は多子に手紙を出すことに。

 彼女たち40代女性の悲喜こもごもに、共感できる読者は多いはずだ。

 まだまだ「遠い話」と感じる世代の方でも、いずれ誰もが直面する「壁」。まったくの他人事とは決して思えない「リアル」さが、本作には詰まっている。

文=雨野裾