アザを持つ女子高生と人の顔がわからない教師。痛みを抱えた者同士の恋の行方は――!?

マンガ

公開日:2019/8/17

『青に、ふれる。』(鈴木望/双葉社)

 コンプレックスを乗り越えるきっかけになったのは、他者からのさりげない一言だった……なんて経験はないだろうか? コンプレックスそのものをなくそうと努力するのも大事だが、他者がありのままの自分を好きでいてくれることをサラリと伝えてくれたことや、ずっと気にしていたことを笑い飛ばしてくれた事実に、今まで何度か救われた記憶がある。

 鈴木望さんのマンガ『青に、ふれる。』(双葉社)は、生まれつき右目の周りに「太田母斑(おおたぼはん)」と呼ばれる青いアザを持つ、瑠璃子の物語だ。彼女は、美人でスタイルも良く、いつも笑顔の女子高生である。だが、アザがある瑠璃子は、周りに気を使わせないよう、慎重に言葉を選んで行動し、自身もアザを気にしないようにと努力をしてきた。

 物語は、瑠璃子が高校2年生になる春、新たな担任教師・新卒でイケメンの神田がやって来るところから幕を開ける。

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 そんなある日、瑠璃子は偶然、神田が生徒の特徴を記入したメモ帳を拾う。中を見た彼女は、クラスメイトの特徴は詳細に記されているのに、自分だけ空欄なことに気づき、神田を問い詰めに行くのだが――!?

 実は教師の神田は、人の顔がわからず、どれも同じに見える「相貌失認(そうぼうしつにん)」という症状を抱えていた。彼は、親の顔も、自分の顔すらわからない。特に問題になるのは、他人の判別で、普段は、服装や髪型、持ち物、声、仕草等で見分けていた。また、顔のパーツにホクロなど大きな特徴があるのもわかると言い、瑠璃子は「アザとか?」と自虐的に突っ込んでしまう。だが、彼はこう反論した。

「いえ…実は青山さんのそのアザ オーラだと思っていました」

 人の顔を判別できない神田は瑠璃子の青いアザを青色のオーラだと勘違いしていたためだった。思いもよらない神田の言葉に瑠璃子はつい笑い出してしまう。

 以来、彼女は神田のことを意識するようになり、また、自分のアザとも改めて向き合うようになる。

 瑠璃子は、アザのことで傷つくことがあっても、「自分が弱いせいだ」と考え、決して他人のせいにしない。心を成長させる努力を惜しまず、周囲の空気を素早く読む。本書は、そんな彼女が、自分と同じように痛みを感じて生きてきた相貌失認の教師と出会い、人の温かさや自分の本心を受け入れることの大切さ、そして恋を知る過程が繊細に描かれている。優しく前向きな瑠璃子を思わず抱きしめたくなったし、コンプレックスを抱える読者にとって、瑠璃子が人知れず流してきた涙は、他人事だと思えない描写も多く、胸が締め付けられた。人は、人に傷つけられることも多いが、誰かのさり気ない一言に励まされ、痛みを乗り越えることができる。一進一退でしか進めないかもしれないが、誰かと痛みを少しでも共有できる事実は、心をとても温かくさせると感じた。心優しい2人のこれからに期待しつつ、楽しみに続きを待ちたい。

文=さゆ