憎しみに生きる母親と、悲しい定めを背負った娘……。ホラーマンガ『雛接村』の結末に、涙する

マンガ

公開日:2019/9/9

『雛接村』(志水アキ/朝日新聞出版)

 人の心に生まれた怨念は死してもなお残り続け、関係する物や土地に宿ると言い伝えられている。肉体が消えても、その情念は存在し続けるのだ。『雛接村』(志水アキ/朝日新聞出版)は、そんな強い情念によって生まれた美しく、儚い少女の物語だ。

 美川大学廃墟部の男子学生・湊(みなと)は仲間たちと、とある山に撮影に訪れていた。急な土砂降りで下山できなくなった彼らは、地図にはない小さな村の屋敷で一晩を過ごすことを決める。宿を確保できて安心していた一同だったが、すぐにこの家の“違和感”に気付く。家主である神屋藤子(かみや・とうこ)の表情、季節外れなツギハギだらけの雛人形、骨や髪の毛が入った食事……。しかし、慌てて部屋を飛び出したときにはもう遅い。彼らは「雛接村(ひなつぎむら)」に足を踏み入れてしまったのだから。

 本作は1巻で完結する連作短編ホラー。廃墟部の遭難、調査に訪れた女子大生の失踪、儀式に巻き込まれる湊、村に伝わる因縁、そして結末と、複数のブロックに分かれながらオムニバスのように物語が展開されていく。

advertisement

 第4話で目を覚ました湊は、屋敷の中で藤子の娘である霧子(きりこ)と出会う。彼女は透けるような肌、艶めく長い髪、そして吸い込まれるような美しい目をしていた。雛接村の習わしによって、16歳を迎えた霧子は婿を迎えなければならない。その相手として藤子に選ばれたのが湊だったのだ。

 しかし、どういうわけか霧子は湊を逃がそうと手段を講じる。自らを“母親の人形”と語る彼女がなぜ? 儀式のために村の神社に連れて行かれる道中、湊はしきりに考えを巡らせていた。

 これまで数多くのホラー作品を読んできたが、自然と涙が零れたのは初めての経験だった。なかでも、第6話で明かされた藤子の歩んだ人生と霧子出生の秘密はフィクションとは思えないほどに心を締め付けられた。とある男性と出会い、道ならぬ恋に落ち、子を身ごもった女。途切れるはずのない男女の関係は些細な歯車の狂いから壊れ、藤子を憎しみに生きる悲しき母親にしてしまったのだ。

 歪んだ愛情で子供を育てる藤子、母親の人形として生きる霧子、そして自らも霧子と同じ類の“呪い”を背負う湊。彼らの情念はどこに向かうのか。圧倒的な画力と計算しつくした構成で展開される本作で、ホラー作品の無限の可能性を感じてほしい。

文=山本杏奈